『アオのハコ』 感想
『アオのハコ』最新話 感想 ネタバレ注意
読み切りの頃から強い輝きを放っていたジャンプの新作青春ラブコメ『アオのハコ』がここにきて更に1段面白さのギアを上げてきました。
正直ラブコメに関してはジャンプよりもマガジンの方が読みやすいことが多いなと感じていた僕なのですが、作者の三浦糀先生は元々マガジンで連載されていた作家さんということもあり、ここ最近の『アオのハコ』は僕好みのテイストで毎週とても楽しめています。
以前『先生、好きです。』(三浦先生の前作)のレビュー記事でも書いたとおり、三浦先生の作風ってとてもピュアなんですよね。
特に今回の『アオのハコ』は恋愛モノとしての"ナチュラルさ"が良い意味でジャンプらしくなくて、今のところ明確に漫画っぽい部分があるとすれば"同居設定"くらいのもの。
ゆえに、連載当初は「"ジャンプの読者層的にこの手の作風ってどうなんだろう......?」と思ったりもしたものですが、蓋を開けてみたら完全に期待以上でした。単行本の1巻が発売される前から本誌で巻頭カラーを飾ったり単行本が速攻で売り切れたりと勢いが凄い。
というわけで今回は、個人的に感じた『アオのハコ』ワールドの魅力と期待している部分について書いていきたいと思います。
(※先日発売された第1巻の内容をベースに、ジャンプ最新話の内容にも少し触れておりますので、単行本派の方は十分にお気をつけください。)
<関連記事>
『アオのハコ』第1巻:青春ラブストーリー爆誕
冒頭でも触れたとおり、本作『アオのハコ』は最近のジャンプではわりと珍しい正統派青春ラブストーリー漫画です。
主人公であるバド部の猪股大喜が、朝練で毎朝一緒になる女バスの先輩・鹿野千夏に恋をする。
その理由がまた実に"アオハル"で、作中時間より遡ること1年半前、全国大会出場を逃した悔しさで一人涙ながらにシュート練習をしていた千夏先輩の姿に当時中学3年生だった大喜は思わず心を奪われてしまう...というもの。
あくまでも、自分も先輩のように努力ができる人になりたいという"人としての尊敬"が入り口で、その憧れが気付いたら恋心に発展し、その結果として「尊敬する千夏先輩に見合う男になりたい」という想いに繋がっている。
尊敬する人がいて、その人と肩を並べられるだけの存在になりたい。この思いが昂じると、異性間では恋愛感情が、同性間では強い友情や絆が芽生えたりするものです。要するに千夏先輩の存在が主人公の大喜を成長させる大きな原動力になっているわけですね。
ここに、部活と恋愛を絡める明確なシナジーがあります。
漫画チックな同居設定は物理的な接点や距離を縮めるための装置としては非常に良いスパイスですが、本質はそこにはありません。
バドミントンにかける情熱と千夏先輩への恋。この両輪が並列的に動いている。スポーツを通してお互いの魅力を知り、恋心を糧に人として成長していく。それこそが『アオのハコ』ワールドを支える骨組みの部分だと思うのです。
近くにいるからこそ今はまだ遠くに感じられるし、それゆえに前に進みたいと頑張れる。一介の新人選手である大喜が、シード校の千夏先輩を目指して一回戦から二回戦、そして三回戦からその先に繋がる階段をいかにして駆け上っていくのか。その展開をどう読者に読ませるのか。
きっと本作は、大喜と千夏先輩が対等に「1 on 1」で向かい合うまでを描いた物語です。
まさかジャンプでここまで爽やかな恋愛部活モノを読めるとは思ってもいませんでしたが、余計な雑味がなく、真っすぐで好感溢れる主人公の大喜の頑張りに一読者として期待したいと思わされた導入でした。
先輩ヒロイン:鹿野千夏
一方で、先輩ヒロインである千夏先輩にとっても、大喜の存在が日に日に大きくなっているだろうことが作品の節々から感じ取れる点も本作における胸キュンポイントの一つだと思います。
例えばこのシーンとか。このシーンとか。
『アオのハコ』は基本的に主人公の大喜視点で描かれることが多く、近年のジャンプラブコメとしては珍しいくらい主人公の感情がストレートに表現されている作風なだけに、千夏先輩側の心情が"必要以上に"描かれたり.....ということはありません。その方が今の段階では読みやすくて良いと僕も思います。
しかし、そうは言っても千夏先輩だって一人の女子高生。年の近い男の子と一つ屋根の下で共に暮らす状況ともなれば、まったく気にしないなんて土台無理なお話です。ましてや、部活絡みで少なからず関りのあった後輩くんですからね。
その後輩くんの原動力が自分にあるとまで気付いてはいなくとも、大喜の言葉や姿勢によって千夏先輩自身も実際に影響を受け、自身の進路を定める決心をつけたりもしているわけですし。
そう、やっぱり自分に足りないものを持っている人には少なからず関心が生まれるし、それがプラスのものであれば自然と好意を抱くものです。
それが思春期のアオハル時代であればなおのことで、更に踏み込んで言ってしまうのなら、一方が尊敬するだけの状況ではその関係が長く続くことはないのかもしれません。
片一方の尊敬だけでは、いつか相手を追い抜かしてしまうか、はたまた追いつけずに途中で挫けてしまうか、しかないから。お互いがお互いを高め合える関係があって初めて、本当の意味で長く対等な相手として付き合っていける。
第3話で友人の笠原が大喜と千夏先輩を見てお似合いと評していた(水族館の一件といい、この友人はきっと恋愛作品の主人公にとって必要なタイプの鋭い友人くんですよね....)シーンもありましたけれど、大喜と千夏先輩を見ていると、そういう関係を築ける人との出会いは素敵だなと改めて思わされます。
優しさ、悔しさ、向上心、負けず嫌い、etc......。単純に一つで括れるものでもないのかもしれませんが、大喜から見る千夏先輩はもちろん、千夏先輩から見る大喜も、きっと自分にないものを持っている人。
ゆえに、後輩の大喜を見て自分も頑張ろうと勇気が湧いてくるし、そんな先輩の隣に立てる人になるべく主人公・大喜の挑戦は続いていく。
この理想的な永久機関の中で、千夏先輩から恋の波動が検知されるようになった時こそ、物語が動く瞬間ということになるのでしょうね。
既に種まきは行われているものの、何かと千夏先輩は気遣いの多いタイプなので、居候として同じ家に住んでいる状況やもう一つの外的要因の影響で少し恋愛方面の進展には時間がかかりそうですが、大喜はやるときはやってくれそうなタイプの主人公ですから、その点は楽しみながら読み進めたいと思っています。
幼なじみヒロイン:蝶野雛
というわけで、ここまで年上お姉さんスキーとしての感想をつらつらと書いてきたのですが、本作にはどうやらもう一人とても魅力的なヒロインがいらっしゃるようなんですよ。
そう、大喜とは中学の頃からの付き合いで新体操部期待の星である蝶野雛さんです。
なるほど、幼なじみですか。うん、しんどい!いや、もうこの時点でどう考えてもしんどい.....。ここにきて、しんどい星出身のヒロインを描いてしまうとは三浦先生もなかなかどうして憎いですよね。
スタートから主人公に好きな人がいる状況下で、もう一人別のヒロインが三角関係的に恋模様に参入してくる。
今までは意識することも気付くこともなかった。他愛もないことで、じゃれ合ってからかいあう。そんな当たり前の日常がずっとそこにあったから。でも、日常は変わる。大喜は千夏先輩に出会って変わった。いや、今まさに変わろうと頑張っている。
そしてその姿を見るたびに、制御できない感情が込み上げてくる。2人が水族館デートをすると知ってムカムカしたことも、同居していると知って動揺したことも。理由は一つだった。
出会いに順番は関係ない。されど、なぜ今なんだろう。どうして今、気づいてしまったんだろう。そんな彼女の心の声がついに第16話で涙となって溢れ出る。
あぁ......。本当に青春ですよ。眩しすぎて直視できないくらいに青春。
無論、『アオのハコ』の作風から推測するに、雛の恋が最終的に成就する展開は読者目線でもあまり想像できるものではないと思います。
可能性がゼロとは言わないまでも、恋と部活の両軸をコンセプトと見た場合に、最も大喜とのエンディングが似合うのはさすがに千夏先輩だと思いますから。そういう意味で雛は失恋することが前提のしんどい系ヒロインと言えるのかもしれません。
とはいえ、結果を知りたくて漫画を読んでいるわけでは当然ありませんから、大喜に恋をした雛がどういう青春を見せてくれるのかが僕は楽しみです。
一人で闘わなくていい。そう教えてくれた大喜の存在が雛を前進させる大きなピースになった。大喜が応援してくれて見てくれている。だから自分も頑張れる。この時点で雛の青春は多くの読者の心を動かせるくらいに光り輝いています。
きっとここから雛の存在が更に千夏先輩と大喜の恋模様に影響を及ぼしていくのでしょう。それを当て馬と読む人もいるかもしれませんが、僕はそうは思いません。
結ばれるヒロインがいれば、失恋するヒロインもいる。この大原則の中で大切なことは、その青春を通して登場人物たちが何を手に入れどう成長をしたのかということ。恋が成就しなければすべて無意味だなんて、そんな一側面的なお話で終わってしまってはやはりもったいないですから。
まだまだ始まったばかりの彼・彼女たちの青春ラブストーリー『アオのハコ』。千夏先輩推しではありますが、心揺れる三角関係の末に生まれるモノにも期待しつつ、ここからの展開を楽しんでいきたいと思います。
※本記事にて掲載されている情報物は「『アオのハコ』/三浦糀/週刊少年ジャンプ」より引用しております。