彼女、お借りします 160話 感想
『彼女、お借りします』 最新話 感想 ネタバレ注意
水原さんを励ます目的で和也が企画したバイト代全額投資の一日デート。
服屋での洋服プレゼントから始まり、彼女の好みを下調べしたうえで映画館デートをプランニングしてみせるなど、ここまでのデートでは和也の彼女に対する想いや真っすぐな姿勢が"ありのまま"に描かれてきました。
水原にはいつだって笑顔でいてほしいし、幸せでいてほしい。どうしたら彼女が楽しんでくれて、どうしたら元気になってくれるのか。そんな一途な想いが巡るデートの中で
でも水原が楽しそうにしてると 俺がめちゃくちゃ幸せで
純粋に君だけを楽しませるなんて
無理なんじゃないかって思えてきたよ
という感情に和也は気が付いた。
一つのロウソクの火がもう一つのロウソクに触れて2つの灯りを共有できるように、心から大切だと思える人の幸せが自分の心にも幸せの火を灯していく。この感情の芽生えこそが、ひとりの人間として....そしてひとりの女性を幸せにする男としての和也の成長だと感じられる。先週のお話はそんな印象を受けた内容だったように思います。
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一方、じゃあ肝心の千鶴の気持ちはどうなのか。
ここまでのお話を真っ当に読むと、千鶴が和也のことを(恋愛対象として)気にかけているだろうことはさすがに疑う余地もないでしょう。
もし仮に何にも思うところがないなら127話で海くんに気持ちを問われて「好きじゃなくもない」なんて答えるはずもないでしょうし、そもそも読者の声を代弁する存在としての八重森さんに「"好き"に決まってるじゃないですか 水原さんも師匠のこと」なんて台詞を言わせる物語的意義がどこにもない。
確かに始まりは「借り物」の関係だった2人。でも、和也がいなければ千鶴は自身の原点でもある「約束」と「夢」を諦めてしまっていた可能性が高く、和也もまた千鶴と出会わなければ誰かのためにこれほど一生懸命頑張れる人には多分なれなかった。
そういう意味でも、もうお互いがお互いにとって代わりなんていないほど"特別"な存在になっているわけですよ。
なのに、「嘘」と「真実」の境界(小百合おばあちゃんの病室で泣きながら言っていた「私もうっ わからないの…!何が正しくて何が間違ってるのか…」という台詞が今の彼女の本心だと思います)で戸惑う千鶴は、和也からの"好意"を恋愛的ニュアンスで受け取らないよう振る舞っている。
どうしてそうしてしまうのかを千鶴の心情ベースで考えると、
①:瑠夏ちゃんや麻美ちゃんの存在(外的要因)
②:レンタル関係を越えた「自分の気持ち」を素直に容認できていない(内的要因)
おそらくはこの2点が要因。
千鶴からすれば、状況的な問題があったとはいえ瑠夏ちゃんと付き合うよう勧めてしまった張本人でもあるし、そもそも和也が自分を「レンタル」するきっかけとなった元カノ・麻美ちゃんとの問題も完全に解消されたわけではない。
もちろんこれらの外的要因は「②:自分の気持ちに素直になること(内的要因)」さえ出来れば当人同士の気持ち次第でどうとでもなる問題ではあるんだけれど、根が真面目な千鶴としては、こうしたことを一つ一つ整理していかないと納得することができないのかもしれない。
入口が「嘘」から始まっているからこそ、自身の気持ちが「本物」であることを認めるのは千鶴の性格からするとそう容易くはないだろうから。
そしてもう一点、親を早くに亡くして祖父母に育てられた……という生い立ちの影響もあるのか、「誰かを頼りにすること」に慣れていなくてとりあえず人と距離を置こうとしてしまうきらいが千鶴にはある。
千鶴と和也が共に作った映画(タイトル:「群青の星座」)のワンシーンに「星座の魅力は孤独の集合体である所」という台詞が挿まれていたけれど、あれはまさしく今の千鶴の境遇(と和也との関係)を示唆したものでもあったわけですからね。
大切な「家族」を失い、寄り添う者がいなくなってしまった千鶴。
けれど、そんな「孤独な星」に寄り添って一緒に「星座」を作ってくれる人が彼女の傍にはいる。
独りで抱え込む強がりな千鶴の性格を小百合さんはずっと心配していたけれど、千鶴のことを「一生支えていきたい」と言ってくれた人が現れてくれた。
だからこそ、小百合さんは千鶴のことを和也に託して亡くなっていったわけですし、やっぱり個人的にはこれからの和也がその期待に応えられるだけの男になっていくのかどうかをきちんと作品の中で表現してほしいなとも思っています。
あと数センチの距離を埋める不器用な僕と強がりな君のデート
さて。そんな物語の文脈を紐解くと、やっぱりこの長編デート回は2人の間にある「あと数センチ」の距離を埋めるとても重要なお話が展開されていくのでしょうか。
たった一人の大切な「家族」を失った千鶴の悲しみ。
覚悟はしていたと気丈に振る舞ってはいても、辛くないなんてことは当然ながらありえない。
「変に気を遣わなくていい」「あなたには十分してもらった」「これ以上は悪い」とあくまでも一線を引こうとしてきた千鶴だけれど、『だとしても!俺がそうしたいんだ......っ!』という偽りのないストレートな気持ちを和也から伝えられて、彼女の「本心」は一体どう感じたのか。
「彼女」と「彼氏」。
水原千鶴の鎧をまとった〈一ノ瀬ちづる〉が、レンタル彼女としてではない自身の気持ちを認めることができるのか。
そして、このデートの末に「不器用な僕」と「強がりな君」の関係がどう変わっているのか。来週のお話にも期待しております。