『咲-Saki-』第215局「包囲」感想
咲-Saki- 215局(以下、咲-Saki-本編最新話感想のため未読の方はネタバレ注意)
インターハイ決勝先鋒後半戦の最終局。
怒濤の連続和了で単独首位に立ったラス親の照は、続く南4局4本場も親の続行を宣言し妹の咲さんを彷彿とさせる嶺上開花を和了ってみせた。
四暗刻単騎待ちを崩してまで選んだ大明槓からの鮮やかな親満。ガイトさんの役満を察知していたがゆえの立ち回りでありながらも、嶺上開花を照が和了ったことについてはやはり何かしらの意図が込められているのかもしれない。
1年の頃から照を見てきた菫さんでさえ印象に薄いのなら、普通に考えても嶺上開花を照が和了った事例は多くなかったはず。
なのに、なぜこの場で照は嶺の上に花を咲かせたのか。単なる偶然がもたらした奇跡でしかないのか、あるいは照の抱えてきた何らかの想いが卓に現れた結果なのか。
打ち手の境遇や想いに牌が応える。そういう物語を描いてきた『咲-Saki-』の背景を考えれば、”始まりの役"である嶺上開花を照が和了ったことに偶然以上の何かを見るのは至極自然な解釈だと思う。
麻雀を通してならお姉ちゃんと話せる気がする!
と言っていた事からもわかる通り、宮永咲は姉との「対話」を目指してここまで勝ち上がってきた。そしてその過程で麻雀の楽しさを今一度思い出し、大切な仲間たちもできた。
そういった作品の背景を踏まえると、現在の宮永照が麻雀を楽しめているのかという疑問点が一つのテーマになっていくのかもしれない。
「宮永咲――!!照を助けてくれるのか――」という菫さんの台詞を踏まえても、照の抱えている問題が「彼女自身の過去(=宮永姉妹が一時的に麻雀から離れていた理由)」に起因しているだろうことは間違いないのだから。
原点と頂点をつなぐ闘いの中で徐々に描かれていく宮永姉妹の物語。様々な想いが交錯する決勝戦の熱き戦いを引き続き見ていきたいと思います。
<前回の感想>
第215局「包囲」
〇南4局 5本場 親:宮永照 ドラ:
さて。前局の嶺上開花で照の和了りは6連続に達し、既に2着の玄ちゃんとの点差は21400点。
加えてここから先は最低でも跳満以上(積み棒込みで19500点以上)の和了りが想定されるため、これ以上の連荘だけは何が何でも避けなくてはならない。
しかし、この局面での跳満直撃は先々の戦いを考えてもチームとして大損害であり、リスクとのバランスを計算した立ち回りが必要になってくることもまたれっきとした事実。
誰かが止めなければ確実に和了られてしまう状況とはいえ、宮永照を相手に勝ち目の薄い手で勝負を仕掛ける行為は完全に悪手でしかない。
ドラ3つの4向聴では心許なさがあった為か、序盤は様子を見つつ真ん中寄りの牌から処理していく無難な方針を取ろうとしていた玄ちゃんの脳裏に2本場の強烈な振り込みイメージがよぎる。
もはや、目の前にいる相手に常識が通用しないことは痛いほど実感させられてきた。
和のように何があろうとデジタルの範囲からブレない信念を持って動けるわけではないし、目の当たりにした奇跡の数々を確率論の内側で認識するというのは流石に不可能の一言に尽きる。
0.001%でも起こり得るなら起こってもおかしくない現象として捉える必要があり、その全てにケアを効かせてオリるためには「100%振り込まない完全安牌の現物」を処理していくしかない。
照と同じ牌を合わせ打ちで落としていき、ひたすら回避行動を繰り返す。そんな流れで場が進んで行く中、完オリ行動の過程で発生する「お約束のムーブ」がここから先の状況を一変させていくことになるわけであります。
決勝先鋒戦の行く末
照の捨て牌に合わせ、切りの順で完オリを遂行(流石に一巡目は上家合わせの切りが正解だったと思うけど...)してきた玄ちゃん。
しかし、5巡目でドラのをツモり、オリていたのに気付けば「大物手を聴牌...!」というまさかの事態が起こってしまうことに。
ツモ ドラ
抱えている半分の牌がドラで構成されているタンヤオドラ7の倍満手。
玄ちゃんの元に全てのドラが引き寄せられ、他家には一枚もいかない。そういう能力である以上「ここでついに完全安牌がなくなって宮永さんの影を踏むことができなくなった」という状況になりやすいのは当たり前で、そのうえドラを捨てることができない制約まで考慮すると、玄ちゃんがオリとして捨てられる牌は必然限定されてしまう。
玄ちゃんの切れる6種類の牌()の内、比較的マシと言えるのが「既に2枚切れている」か、もしくは「一巡前に上家の優希が捨てたのスジ便りで」か....というところで、後は安牌を引いてくることに祈るしかなかった。
しかし、5巡目に、6巡目にを落として耐え凌ぐも安牌を引けず、ドラのと中央寄りのが順に重なった結果、切れる牌の選択肢として残ったのは「」のド真ん中4種類のみ。
完全安牌どころか危険牌しかない状況下で、果たしてどれを切るべきか。直前の切りをどう捉えるかにもよるが、どうせ全て危険なら聴牌を維持できる「」のどちらかを切るのが確かにベターではある。
を残せば断么九ドラ8に一盃口まで付いて10翻。ツモれば三倍満まで見えるため、ここはもう魂の切りで良い。たとえ振り込むことになっても、これ以外に選択の余地なんてなかったのだから。そう思える局面だった。
ロン
が、開かれた照の手牌を見て最初から退路が完全に断たれていたとわかる流れになっていたのがあまりにも強火過ぎて、もはや軽く戦慄。
「」の4種類全てが照の当たり牌であり、ロン以外はどんな和了り方でも跳満が確定している手牌。
ドラで手が圧迫されてしまう玄ちゃんのマイナス面が浮き彫りになっていた一局とはいえ、ここまで完璧に狙い撃った形の支配を発揮されてはもうどうすることもできない。
〇現在の点数状況(後半戦南4局5本場終了時点)
1位 白糸台 :148200点
2位 阿知賀女子 : 87800点
3位 臨海女子 : 84200点
4位 清澄 : 79800点
この跳満の直撃で完全に3コロ状態と化した先鋒戦の闘い。
全国2位の荒川さんが「ヒトじゃない」と形容する照の圧倒的な強さは、やはり全国3位のガイトさんを以ってしても止まらない次元にあるのか。それとも、最後の最後で全国最上位プレイヤーとしての意地を見せつけてくれるのか。
ここから先は「倍満(8回目)」「三倍満(9回目)」「役満(10回目)」と続いてしまうデッドラインの攻防戦。三校がどのように宮永照を止めるのか、最高のドラマを楽しみにしております。
次号は休載で、次回は5/15発売号で掲載予定。