ふわふわな日記

刻んだ敗北と聖夜の誓いーー『ラブライブ!スーパースター!!』第12話 感想

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#12 song for all

 

この1本のエピソードの中には、「ラブライブ!スーパースター!!」という物語の始まりと、始まりからの変化をほのめかす描写がたくさん詰まっていました。

 

2つに分断されていた学校が1つの目的に向けて動き始めたこと。植え込みに隠れて独り描いていた千砂都の丸が今や綺麗な五輪を形作っていること。他にもありますよね。この1年の間には本当に色々なことがあった。彼女たちを取り巻く状況の変化が、その事実を雄弁に物語っています。

 

 

 

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もう大丈夫(第12話より)

 

中でも特筆すべき点はやはり、外界を遮断するために用いていたヘッドホンからかのんが卒業を果たしたシーンでしょうか。

 

桜咲く4月の入学式、あの日に可可と出会えていなかったらきっと今の前向きな気持ちを取り戻すことは出来なかった。大切な仲間たちに出会い、再びステージで歌を歌うことも出来なかったと思う。

 

だからこそ、かのんは「私...この学校でよかった...!」と笑顔で語っています。一人で歌えるようになったことも、かつての自分を取り戻せたことも、みんなとの出会いがあったから。すべてが繋がっていて、無関係じゃない。ラブライブ!の東京大会を目前に控え、かのんは「今の自分の気持ち」「今の自分がいる場所への感謝」を再確認していました。

 

 

<前回のラブライブ!スーパースター!!>

 

 

12話(最終話):song for all

 

そんな一つの集大成、一つの区切りとなる今回のお話の中で、しかし一つの問題提起が物語の中盤で差し込まれることになります。

 

それがかのんの口から飛び出した「私は... 歌で勝ったり...負けたりってあんまり...」という台詞。彼女とメンバーの間にあるぼんやりとしたギャップがここで朧気ながらに表現されています。

 

 

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かのんの想い(第12話より)

 

無論、このかのんの気持ちは理解できる話ではあると思います。「自由に歌を歌うこと」を第一としてきたかのんにとって、"勝利"はどこか副次的なものでやはり至上命題ではなかったから。「頑張った分だけできるようになっていくのって楽しいなって思って...」という気持ちを歌で表現すること。これがかのんの願いであり喜びだったからです。

 

勝つことで真に何が得られるのか、あるいは負けることでどんな感情が自身に芽生えるのか。つまるところ、これまで自分の内側と対峙してきたかのんには、実体験として誰かと競い合うことの実感がこの時にはまだ湧いていなかったのでしょう。

 

ゆえに、どこか勝ちに貪欲になりきれていない自分が出てくる。もちろん、こういう楽しみ方が間違っているわけではありません。サニーパッションの聖澤悠奈も同意している通り、想いや考えは人それぞれ。自分の中で完結しているのであれば、それもまた立派に一つの道ではあるはずですから。

 

 

 

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なぜ勝ちたいのか(第12話より)

大丈夫 ラブライブで歌えば すぐ気づくはずよ 

なぜみんな勝ちたいか 勝たなきゃって思うのか

 

しかしそうした前提の上でなお語られたのが、この柊魔央の力強い台詞。この揺るぎない言葉の中に、彼女たちが「東京都代表」としてトップに立ち続けてきた理由が隠されていたのです。

 

 

なぜ勝ちたいのか

 

ラブライブ!」東京大会当日。色々な事を経験し、また色々なものを取り戻せたこの一年の結実を表現するステージを作ってくれたのが、結ヶ丘の生徒たちでした。

 

体育館がステージだと思っていたかのんですから、学校の外に飛び出すことはおろか、街全体を巻き込んでの舞台になるとはきっと想像さえしていなかったことでしょう。

 

自分一人ではできなかったこともこの5人でなら、5人でできなかったこともこの学校の「みんな」となら。そのつながりの心強さ、学校と共に進む"スクール"アイドルの在り方を再確認したかのんは、一人ひとりに宿る灯火が輝きを生むこの景色を前に、「みんなへの感謝」を感じています。

 

 

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スクールアイドルとみんな(第12話より)

 

一方、学校のみんなもまた「自分たちも何かをしたい」という思いを抱いてここに集まっていました。

 

もちろん最初からそうだったわけではありません。音楽科と普通科に分かれていた生徒たちが「Liella!」を軸にまとまり、今や街一つ巻き込むほどの熱量で手を取り合っている。これはひとえに「Liella!」という存在にみんなが希望を見出しているから、彼女たちが懸命に走ってきたことを知っているからですよね。

 

同じ学校の生徒が、自分のやりたいことを全力で追いかけている姿。その姿に、「そばにいる人」「応援する人」は勇気をもらい、自分も何かしたいと思い始める。中にはいずれ自分の夢を追いかける人が出てくるのやもしれません。

 

そしてそんな周囲の人の姿に、スクールアイドルもまたパワーをもらっている。スクールアイドルから「みんな」へ。「みんな」からスクールアイドルへ。この関係性が、シリーズを越えて受け継がれてきたスクールアイドルの文化、「ラブライブ!」の文化なのです。

 

 

 

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2位という現実(第12話より)

 

だからこそこんなにも、こんなにも悔しいのだと思います。

 

「みんな」に支えられてやりきった最高の舞台。かつての自分を取り戻し、私達5人だけでは決して掴めなかった輝けるステージに「みんな」が導いてくれた。5色のカラーが空を目指して伸びていく"Starlight Prologue"の演出は、高みを目指す「Liella!」を表してもいたのかもしれません。

 

それなのに、それでもなおサニーパッションには勝つことができなかった。ここに至るまでに関わってくれたすべての人が見守る中、「Liella!」が手に入れたのは2位という結末。その現実を突きつけられた瞬間のかのんの表情には、溢れんばかりの悔しさが滲み出ていました。

 

聖夜の誓い

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なぜ勝ちたいのか(第12話より)

そして同時にかのんはようやくここで、自分の中に眠る一つの感情に気付きます。「なぜ勝ちたいのか」「勝たなきゃ」って思うのか。

 

島全体を背負い、島のみんなに支えられて「ラブライブ!」に出場しているサニーパッション。彼女たちもまた、かのんたちが見た景色を知っている者として、かのんの胸に湧き上がるこの感情の正体を知っていました。

 

『受け取ったものを 何も返せなかった』こと。かのんにとってはそのことが何よりも辛いことだったのです。地域に、学校に、みんなに支えられて挑んだ結果の負けだからこそ、その期待に答えられなかったことが悔しくてならない。

 

 

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刻んだ敗北と流した涙(第12話より)

 

ゆえに、このままでは終われない。言い訳も強がりも言わず、ただありのままに「悔しい」「勝ちたい」と感情を吐露できるのはそれだけ本気だったことの証なのです。

 

そんなかのんの感情に共鳴して、ずっと彼女の第一声を気にしていた千砂都が、「私は最初からそのつもり」と述べていたのも印象的。この"負けん気"が人を強くすること、更に人を高みへと押し上げることを、既に一つの頂点を見てきた彼女はよく知っているのでしょう。

 

だからこそ、この敗北はきっと『勝利よりもずっと意味のある敗北』になる。歌を競うことの意味、ライバルと高め合う価値。なぜスクールアイドルが「ラブライブ!」に出て、「勝ちたい」と思うのか。

 

今ならわかる。その真実を心底実感させられた「Liella!」の5人は、雪の降る聖夜の原宿で未来への決意を、来るべきリベンジを誓います。もう絶対に負けない。貰ったもの。背負ったもの。周囲の期待に応えられない辛さを受け止め、周囲の期待に足りる自分たちになるための闘いが今ここから幕を開けたのです。

 

 

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Prologueのその先へ(第12話より)

 

そして時は巡り、場面は再び春の物語へ。残念ながら物語は一度ここで幕を閉じますが、彼女たちの「ラブライブ!」が本当の意味で始まるのはきっとここから。それが「ラブライブ!スーパースター!!」が1クールをかけて描いてきた結論だと感じていますし、またそうであってほしいと心から思います。

 

競い、高め合った先にある"勝利"を求めて。負ければこそ鮮明になった目標を目指し、彼女たちの青春がどう輝いていくのか。どうしたって見守らずにはいられません。新しいスタートを切った「Liella!」の物語。ここから続いていく青春に注目しております。

 

 

最後に

 

最後に簡単な総評というか独り言を。

 

簡潔に言って「本当に大好きな物語」でした。もう本当にこれに尽きますね。「ラブライブ!」を牽引していく主役として澁谷かのんにどれだけの強さと弱さがあり、あるいはどんな願いを掲げて、勝たなければいけない理由を見出していくのか。主人公にとことんフォーカスをすることで、作中で一年、全12話の物語の中でそういうモノを積み上げてくれたシリーズだと感じています。

 

メンバー全員を一年生としたこと、それがゆえに1クールを使い切って「スタートの物語」としたこと。

 

色々な試みが検討されただろう中で、勝つことよりも意味のある敗北を土台として次に繋げていく作りは、先行作が出した答えに甘えず、「Liella!」だけの物語を追求していく姿勢に見えて本当に好印象でした。

 

あと、可可の帰国にまつわる事情をここであえてオープンにしなかったことは物語として正解だったようにも思います。澁谷かのんがなぜ「勝ちたい」と思うのか、その源泉を湧き上がる悔しさと定義するのなら、それ以外の外的要因は雑味になりかねなかったとも思いますので。この点は2期でどのように扱われるか期待しておきましょう。

 

兎にも角にも、これで続かなかったらもうそれは嘘だよ...!(笑)という引きであることも事実ですが、ひとまずの区切りということで、本当に制作スタッフの皆様お疲れさまでした。またこうして感想が書ける日を楽しみにしております。



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