ぼく勉 問141 感想「その[x]に微笑む者と咽ぶ者そして...」
『ぼくたちは勉強ができない』 最新話 感想 ネタバレ注意
今週の『ぼく勉』を読了。
ついに訪れた「合格発表」の日。それはここまでの努力が結実するかどうかに審判が下される日であり、誰もが等しく緊張を抱く日です。
頑張ってきたみんなとの日々を結果として残したい。「夢のスタートライン」に立ってこれからの未来に羽ばたいていきたい。様々な想いが胸に込み上げてくる中でたどり着いたその運命の瞬間。
いよいよ以て描かれる「勉強軸」の結末とその先にある「恋」の物語。
『ぼく勉』という作品を形作ってきた2つのファクターがどう描かれ、どんな決着を見せていくのか。そんなところを踏まえながら今回の感想を書いていきたいと思います。
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さて。そんなわけで今回は「合格発表」を迎えた成幸くんたちのお話です。
前回の感想において、
高3スタートというラブコメの王道にそぐわない設定(――"進路"という独自性の出やすいテーマ――)を通してヒロインたちの個性を表現し、努力次第で何者にもなりうる可能性があると提示する。恋愛一色にキャラと世界を塗り切らず、曖昧で不安定な未来に立ち向かう高校生たちの姿を描写する。
というコンセプトを貫くことが『ぼく勉』の目指してきたストーリーだったのではないかと書きましたが、まぁ流石にここで受験が失敗する(=努力が実を結ばない展開になる)とは思えない流れでしたよね。
個別の長編が描かれてきたヒロインたちはもちろんのこと、主人公の成幸くんにしても「迷い」や「苦悩」は既に描かれてきたわけですし。ジャンプのフォーマット的にも『ぼく勉』の作風的にもここで落としてくる展開はいくらなんでもテーマにそぐわない。
というわけで、みんな無事に合格を掴み取ることとなりました。
そんな「合格」の報告を持ってきた3人の姿に、真冬先生は一体どれだけの「嬉しさ」を感じていたことでしょうか。
「できない」を乗り越え、自分の「やりたいこと」を貫き通した生徒たち。かつてその道を諦めるようシビアな接し方をしてしまったけれど、でも、それは同時に彼女たちの将来を「本気で案じていた」証でもある。
よかった....。本当によかった....。心からそう思えた今この瞬間に涙を流す真冬先生の姿はもう立派に「生徒に寄り添う先生」の姿そのもの。ありのままに素直な心の内を明かし、ずっと見せることができなかったその姿をようやくみんなの前で晒すことができた点に「真冬先生の物語」の集大成が描かれていたのかもしれません。
高校生である成幸くんたちの先を生きてきた「大人」として。
「過去」の挫折とその礎としての教育論(=教師としての在り方)を今一度見つめ直し、生徒たちと共に「今」を歩いてきた桐須真冬。
そんな彼女の存在は『教育(=勉強)』という題材を扱っていくにあたって極めて重要で、作品に確かな奥行きを与えてくれていたと思います。
受験に悩む「子供」たちと同じように、きちんと自分自身に向き合い「未来」へと歩を進めた真冬先生がこれから先「教師」として成幸くんとどう作用し合っていくのか、その断片が少しでも見られたら嬉しいなと感じた次第でありました。
「過去」と「今」と「未来」をつなぐ乙女の告白
さて。そんな感動の「勉強(=夢)」パートにひとつの決着がつき、いよいよお話は「恋」の物語へ突入です。
これまた先週の感想でも言及しましたが、『ぼく勉』の恋愛物語は「勉強(=夢)」が最優先という立てつけの元にエピソードが描かれてきました。うるかの「そういう相手...いないの?」という台詞に「受験が終わるまでそんな余裕ないっての」と返していた成幸くんの言葉がまさしくその象徴でもあって...。
だからこそ、受験が無事に終わったこのタイミングで恋物語が動き出していくことの納得性・必然性はとても強く、その中心を担っていくヒロインが「うるか」であろうこともまた個人的には想像していた通りでした。
水泳を頑張るうるかの姿が中学時代の成幸くんに勇気を与え、成幸くんの言葉がうるかを救ってくれていた。長い時間を隔てつつも、手渡され大事にされてきた言葉たち。そんなリレーションを長いこと「同級生」というカテゴリーに押し込め続けてきたけれど、でも、もうこのままではいられない。
卒業を目前に控えた自分たちの「今」。そこから一歩を踏み出して「明日」に進んでいくために。5年間「今の関係」が壊れることを恐れ続けてきた少女が今この場で「飾らぬ真っ直ぐな想い」を、胸の内に秘めてきた「たった一つの真実」を言葉にする。
好き
ずっとね...成幸の受験が終わったら
その瞬間に言うって 決めてたの
あぁ...この2文字を口にするのにどれだけの時間がかかったことだろうか。
ずっと片想いを募らせ続けてきた中学時代。成幸くんと同じ高校に通うために「一之瀬学園」を受験し、毎年のようにバレンタインでチョコを作り続けてきた青春乙女。
そんな彼女が想い人と離れ離れになる「進路選択」をしただけでもかなり胸を打つものがあったというのに......。今ここで「全ての覚悟」を決めたかのように力強い言葉を紡ぐうるかの姿にはもはや感慨深さしかありません。
本当に『ぼく勉』ラブコメワールドの終わりがいよいよ近づいてしまっているんだなぁ...ということを強く再認識させられた、問141「その[x]に微笑む者と咽ぶ者そして...」のエピソードでありました。
桜咲く「春」は近い
とはいうものの、「ここでうるかが告白までいくのか....」というのがもう今回の率直な感想ではあったんですよね。
雪が解けて春になりここから徐々にラブコメの温度が上昇していくのだろうとは想像していましたけれど、まさか初手から最大火力で王手をぶっぱなしてくるとは正直思っていませんでした。
この勇気ある一手がそのままチェックメイトへの布石となるのか、あるいは「恋愛劇」を進めていくためのプロローグとなるのかは現状判断がつきませんが、差し当たって考えられるパターンとして「ノータイムでは返事がなされない」という展開に収まりそうな気はするでしょうか。
まだ理珠ちんも文乃さんも「自分の恋」を全うできていない。
そんな状況でゴールテープが切られるとは流石に考え難く、物語の構造的にもここから3人のヒロインたちが織り成す「葛藤」と「青春」が描かれていくのだろうと思います。
とすれば、あり得る展開の一つとしては「成幸くんが恋の師匠である文乃さん」に今回の一件を相談し、事態が更に混迷を極めていくという感じになりそうな予感もしますね。
まぁ単なる予想なので実際にどうなるかはわかりませんが、仮にそのルートに入ったとしたなら文乃さんスキー的にはかなり心抉られるストーリーが待ち受けていそうな気も…。
そして、今やどんな動きをみせても全く不思議ではない理珠ちんが自身の「すき」をどう表現していくのか。100%笑って、100%ぶつかって。素敵な大人になっていく彼と彼女たちの恋物語。
きっと忘れられない「春」になる、ここからの『ぼく勉』ラブコメワールドの結末を心より楽しみにしております。
※本記事にて掲載されている情報物は「『ぼくたちは勉強ができない』/筒井大志/週刊少年ジャンプ」より引用しております。