ここまで本作を見てきた方はご存じの通り、『ラブライブ!スーパースター!!』という物語には作品を貫く一つのコンセプトがあります。
それが『私を叶える物語』。それぞれが個々に叶えたい夢を持ち、その夢を実現させるための場所として「Liella!」というチームが成り立っている。「歌でみんなを笑顔にする」という夢を掲げるかのんもまた、大好きな"歌"ともう一度向き合うためにスクールアイドルの門を叩きました。
あれからいくつかの月日が流れ、すみれ・千砂都・恋の3人がメンバーに加わり、Liella!のリーダーとして仲間と共にステージの上に立ってきたかのん。
ラブライブ!の地区予選を突破し、母校の小学校から歌の出演オファーが舞い込んでくるなど、彼女たちの活動が概ね順調に進んできている中で、しかしその実、かのんが歌えなくなってしまった大元の原因、その根底の部分にある「過去の挫折」が真実解決されていたわけではなかったんですよね。
もちろん、澁谷かのんのリスタートを象徴する楽曲「Tiny Stars」の歌詞にもあるとおり、「ひとりじゃないから諦めないで進める」と想うことが間違っているわけではありません。
仲間がいるから頑張れる。可可も指摘しているように、これもまた素晴らしいこと。かのんが「歌うこと」に前向きになれたのはあの日の彼女が可可の手を取ったからで、チームとして共に歩んでいく意義がここに内包されています。この点はメンバーの誰しもが実感していたことでしょう。
しかし同時に、そんなかのんの現状に対して「それって本当に歌えることになるのかな?」という想いを千砂都は心のどこかで抱え続けてきました。
かのんと対等に並び立つ自分になるためダンスに打ち込んできた千砂都は、一人で何かをやりきることの意味、無力な自分を作り変える過程で得られるモノの価値を誰よりも知っています。
だからこそ、"友情"だけを答えにしたくない。仲間と手を繋ぎ、歌を歌う。それはとても素晴らしいこと。でも、一人で歌えない状態から目を背けたままでは、本当の意味で歌に向き合えたとは言えないと思うから。
そんな千砂都の想いは可可との会話を通して描かれていたとおりです。
五つに繋がったたこ焼き(=現在のLiella!を表すメタファー)をそのまま受け止められないのは、そこに妥協があると感じてしまうがゆえ。食べてしまえば同じ、5人でステージに立てば同じ。確かにそれでも成立はするのかもしれない。
でも、それではきっとあの頃のかのんが夢見ていた世界には至れないんです。千砂都が振り返る過去、かのんと千砂都の原点にはそう思えてしまうだけのものが確かにある。
かのん「最初からできないなんて そんなことあるはずないよ」
千砂都「でも....」
かのん「私も一緒にやるからがんばろう」
気が弱く、泣き虫だった幼い頃の千砂都。そんな彼女のそばにいて、前に進むことの大切さや勇気をくれたのがかのんでした。
しかし、千砂都はかのんに守られるだけの自分を良しとしなかったんですよね。走っては転び、体力もなかった子がゼロからダンスを始めて全国レベルまで証を刻んだのですから、並大抵の努力では至れなかったはず。
「何もできない自分」から「かのんちゃんを助けられる自分」になりたい。憧れの人、大切な誰かの隣に並び立てる存在になりたい。守られてばかりの自分ではいけないというこの想いが千砂都を強く成長させ、憧れのヒーローを追いかけて未来へと進む原動力になっていきました。
だからこそ、嵐千砂都は誰よりも信じています。笑顔で縄跳びを飛び、自分に勇気と諦めない気持ちを教えてくれた澁谷かのんの強さを。世界地図を見据え、広い世界へと歌を響き渡らせる。その原点こそが澁谷かのんのスケールであり、嵐千砂都が憧れた最強のヒーローだということを。
そんな千砂都の想い、一人で挑むことの意味を再確認したかのんは千砂都へ感謝を告げ、過去の自分へと向き合います。
本当は怖かった。物事には表裏があり、みんなのメンターとして歌の楽しさを説いていたその強さの裏側で、恐怖に震えていた弱い自分がいたこと。そんな弱い自分を認め、受け止めてあげる必要があったこと。
今ならわかる。その弱さに怯えることも恥じることもなかったんだ。誰もが弱さを抱えている。大事なことはその事実から目を背けずにきちんと向き合うこと。そのうえで前に進むために諦めず挑み続けること。尊敬する幼なじみがその人生を賭けてそうしてきたように。それが長い足踏みの末にたどり着いた澁谷かのんの答え。
そう怖かったんだ...あの時も
それでも私は大丈夫 大好きなんでしょ歌
ゆえにもう大丈夫。自分の気持ちに気付けたから。気付かせてもらったから。怖くても進める。ちっぽけな昨日までの私を作り変えて、もう一度ここから夢に描いていたステージを奏でていける。
かつて向き合えなかった自分の弱さを抱き締め、力強くステージへ進んでいくかのんの姿は、かのんの優しさに後押しされ、それに並び立つ強さを求めて未来へと踏み出したかつての千砂都の姿とやはり対の関係になっているんですね。
千砂都は未来へ、かのんは過去へ。それぞれが進みだした先でも道は重なり、2人の想いはやはり何よりも強固に結びついている。寄りかからず甘えず、互いを支え合う自立した個として手を繋ぎ合えるのは、友情に妥協しない、互いの在り方と夢を尊重し合えるこの2人だからこそなのかもしれません。
みんなのリーダーとして、千砂都の弱さを受け止めてくれていたかつてのかのん。しかし一方で、いつも先頭でみんなを鼓舞してきたかのんを導ける存在はきっと同年代にはいなかったのでしょう。
だからこそ、「かのんちゃんを助けられる存在になりたい」という千砂都の夢が大きな意味を持ってくる。かのんの中にある弱さを理解し、時に厳しく、しかし大いなる愛を持って彼女を支え導ける存在がやっぱり必要だったから。
嵐千砂都があの日誓った壮大な夢、過去と未来を抱き締めるその強い願いは"彼女のヒーロー・澁谷かのん"の復活と共に今日この日叶ったのです。
<前回のラブライブ!スーパースター!!>