『甘えたい日はそばにいて。』感想、アンドロイドの少女が人に恋をするせつない傑作純愛ストーリー!
アンドロイドの少女が抱いたのは、ゆるされない恋心だった――。
「まんがタイムきらら」史に残る不朽の名作『幸腹グラフィティ』を手掛けた川井マコト先生の新連載作品、『甘えたい日はそばにいて。』の第1巻が少し前に発売されました。
なんだろう...もうただただ胸が締め付けられるくらい、せつなさが尋常じゃない。きらら誌面で毎月読んでいるのに単行本を呼んで更に泣かされてしまいました。
川井先生は人の心の機微を上手く表情として絵に落としこむスキルの高い作家さんだと常々感じていたけど、『甘そば』を単行本で改めて一気読みするとつくづくスゲェ作家さんだ・・・!と思わされますね。うん、やっぱり川井マコト先生は神です!
人間と区別のないアンドロイドが働く世界。 お手伝いアンドロイドのひなげしは、高校生小説家の楓に片想い中。
しかし彼女は……恋心がバレたら処分される運命だった! ライバルの登場、初めての友達、謎の電話、甘い青春、 そして……何度も変動する物語は、最後の1ページで急転する。 「幸腹グラフィティ」の川井マコトが贈る、秘密の片想いの物語、開幕!
ひなげしさんの人間らしさ
人間とそっくりな見た目をしたアンドロイドが、人間とともに暮らすことが当たり前になった世界。そんな世界でお手伝いアンドロイドのひなげしさんは、雇い主でもある高校生小説家の楓くんに恋心を抱いていました。
楓くんと一緒にいられるだけで幸せだと語るひなげしさんがかわいさ濃縮100%でハートを鷲掴みにされてしまうんですが、なんと言っても、彼女はアンドロイドでありながらもとても人間らしく、人間以上に喜怒哀楽(怒ることはないけど)の感情を見せてくれる点が非常におもしろいのです。
落ち込んだり、喜んだりする様子はまさに人間そのもの。それぞれの得意分野を活かせる職業に就き、人間と変わらずに生活しているアンドロイドたちは、自分たちから打ち明けない限り、見分けるのが難しいくらい人と区別のない存在になっていました。
しかし、たった一つだけ、人とアンドロイドを分かつ壁が存在しているのです。
そう、それが結婚。
アンドロイドは人間とは結婚できない。しかも、倫理的にではなく、法律的に。この気持ちがバレたら彼女は廃棄処分されてしまう。
ひなげしさんがどれだけ楓くんのことを想ってもこの世界では彼女の恋は実らないのです。どれだけ人間的であっても、どれだけ一途に想っていても飛び越えられない境界線が彼女の心を苦しめる。
触れられる距離にいるのに、触れない。近いのに、遠い。日常の中でその距離感に葛藤を抱くひなげしさんの姿が実に良く描かれていて、せつなすぎて思わず単行本を叩きつけたくなってしまう。終始ドキドキハラハラさせられっぱなしです。
なぜ、アンドロイドに感情を持たせたのか。アンドロイドが人と同じような水準で労働力として社会生活を営むなら、感情なしでは成立しないのも事実だから。
社会に適合するうえで感情というものは欠かせない。ゆえに、人は感情を持ったロボットを生み出そうとするのです。
作中の風景は「感情を持ったアンドロイドを生み出すこと」に技術者たちが従事する現代社会とそこまで変わりません。
それなのに、「人間」と「ロボット」の恋は禁忌のように扱われる。「感情」を持つアンドロイドたちから言わせれば、まさに人間のエゴを凝縮した構図と言っていい。
そんな人間のエゴによって涙を流すひなげしさんを見ているだけで、心にぐさっと刺さるものがあります。ただ想い続けることさえも許してはくれない。そんな当たり前の幸せさえもセカイは彼女から奪っていく。
ひなげしさん頼むから報われてくれ!と全読者が川井先生に叫んだことでしょう。しかし、物語が進むにつれ、どんどんせつなさがジェットコースターのように加速していくのです。
ひなげしさんに希望はあるのか
第3話で恋のライバルである楓くんの幼なじみ・あずきさんが登場し、自分と楓くんとの間にある踏み越えられないラインを再認識させられるひなげしさんの表情にはもう涙腺崩壊を禁じ得ません。
せつなさゲージがカンスト・・・。読んでて心が締め付けられる。人間の身勝手に振り回されるひなげしさんの姿が僕の涙腺にクリティカルヒットを叩きこむのです。
これ以上はやめてくれ!僕のハートが死んでしまう!と叫ばずにはいられない。しかし、そんなせつなさ特盛の中にも、甘酸っぱい希望がトッピングされるのがこの作品の素晴らしいところ。
ひなげしさんがぐうの音も出ないほどにかわいい!
赤面するひなげしさんの恋する乙女っぷりには全面降伏せざるを得ません。難攻不落のフラッグ車も白旗を挙げる破壊力ですよ。
その恋は決して許されなくて、世界が、誰かが彼女の想いの邪魔をする。それでも、許されないと分かっていても、求めてしまう。それほどに彼女の想いは作り物ではなく「本物」なのです。
希望は何処にも見えなくて、辛い事ばかりだってことも分かってる。それでも、側にいたい、側にいてほしいと思う。だからこんなにも冷たくて、残酷な世界でもあたたかな希望を探す。これはそんなせつなくもあたたかい物語です。
1巻のラストで更なる急転直下の展開が描かれますが、果たしてひなげしさんの恋は成就されるのでしょうか。
彼女の想いは、人が作り出した歪な世界を変えることが出来るのか。人とアンドロイド、両者の間にある溝を埋めることが出来るのか。
これからの展開に期待。いま、まんがタイムきららで最もおすすめの作品です!