ふわふわな日記

『彼女、お借りします』161話 感想:千鶴は一体何に葛藤し、その壁をどう乗り越えていくのか

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彼女、お借りします 161話 感想

彼女、お借りします 161話(最新話)感想 ネタバレ注意

 

千鶴と和也の一日デートを主題とした「彼女と彼氏」編も今回でついに5話目。

 

前回はオシャレなお店でランチを食べてから食後の運動に「ボルダリングへ....という流れでお話が進んでいましたが、(和也のアレな妄想描写はともかく...)肝心の千鶴も思った以上に今日という日を楽しむことができていたようで、序盤は凄く良い雰囲気の2人が描かれていました。

 

千鶴から2人で柔軟をしないかと誘い、和也の助言によって今までクリアできなかった高さの壁(このやり取りも2人の未来を考えれば非常にメッセージ性を感じますね)を千鶴が乗り越えていく。そして極めつけのハイタッチ。誰がどう見ても実に良好な関係が見て取れたことでしょう。

 

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壁を乗り越え、笑顔でハイタッチ(第161話より)

 

 

......が、そんな楽しい時間の裏側には未だ表面化していない「千鶴の葛藤」がある。

 

レンタル彼女・水原千鶴として、そして一人の少女・一ノ瀬ちづるとして...。彼女が一体何に思い悩み、その壁をどう乗り越えていくのか。今回はそのあたりを軸にした感想となります。

 

 

 

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『彼女、お借りします』161話 :彼女と彼氏⑤

 

さて。前回の感想でも書きましたが、今回の長編デートではいつも以上に千鶴に対する和也の気持ちが前面に押し出された形でお話が描かれています。

 

和也の目的はあくまでも彼女を励ますことであり、彼女の力になること。レンタルをして千鶴を呼び出すという方法の是非はさておき、和也の純粋な気持ちに偽りはありません。

 

 

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和也の気持ち(第161話より)

 

そんな和也の想いは既に千鶴も感じ取っている通り。

 

いつものデートとは明らかに違う状況である以上、気を遣われているだろうことは嫌でも察しがつく。.......と同時におそらく千鶴は和也から寄せられている"好意"に半ば気付いてもいる。

 

人の気持ちはそんな簡単なものではない。「嘘」だからと「レンタル」だからと頭で割り切って全てに線を引くことなんてできない。人と人の関係.......そこにある本当の気持ちは「演技」とか「役」とかそういう物差しだけで定義付けして縛り付けられるものではないから。

 

女優としての「水原千鶴」の生き方に憧れて、小百合おばあちゃんのため....そして千鶴の夢のために和也が頑張ってきたことは疑いようもない。けれど、こと「恋愛」においては別のところにも本質がある。なぜそこまでして和也は頑張ってくれたのか。どうして...?何のために....?それを考えれば自ずと答えが出てくる。

 

「好き」だから。彼女の幸せを心から願いそのためならどんな行動も惜しまない。今はまだ「家族」でもないただの隣人の彼が彼女のためにそこまで頑張れるのは本当の意味で一ノ瀬ちづるに惹かれてしまったからだよ。

 

 

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本当の彼女/本当の彼氏(第122話より)

 

そして、それはやはり千鶴自身も半ば気が付いているはずなんだ。

 

第122話で八重森さんとその話を交わした時から、あるいはもっと前から「彼女と彼氏」という関係を意識しないわけにはいかなかった。

 

それでも彼女が和也との間に「一定の距離」を置こうとしてしまう一因としては、彼女の目指すところが「女優」だからという部分がやはり大きいのかもしれない。

 

「弱い自分」を覆い隠すために「強い自分」という鉄の鎧を身に纏う。幼いころに両親を失い、大好きだった祖父さえも他界してしまった。そんな境遇にいた千鶴が現実に負けず前向きに生きていくには「鉄の鎧」が必要だったのだと思う。

 

 

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弱い自分(第58話より)

 

そう考えると、「寂しくない人なんていないのよ  隠せる人が多いだけ  皆 心に空いた穴を"仕事"とか"恋人”とかで埋めてるのよ」という台詞を千鶴自身に言わせていることには間違いなく意味があるはず。

 

大好きだったおじいちゃんとの「約束」を守り、女優という「夢」を叶えることがちづるの生きる原動力だった。これまでの彼女はあらゆる寂しさをその強い目標意識(=要するに"仕事")を糧にして覆い隠してきた。

 

でも、小百合おばあさんはそんなちづるの脆さ(内側にある弱さ)をひどく心配していたし、それゆえに自身の不甲斐なさを自覚して他者に寄り添える和也のことを人としてもちづるのパートナーとしても信頼していた。

 

人は誰しも完璧ではなく、時に迷い失敗もする。けれど、その「不完全さ」こそが人間らしさなんだよね。意思や感情を持っているからこそ人は無駄に空回りをしたり、不要な衝突を繰り返したりする。人間というのはどうしようもなくそういう生き物で、だからこそ自分の弱さを受け入れてそれでも幸せになりたいと立ち上がれることが強さなんだよ。そういう積み重ねを人は「人生」と呼ぶのだから。

 

最近の千鶴と和也の関係性を見ていると、初期に受けていた印象とは違い、『かのかり』は泥臭くも人間らしい恋愛物語を描こうとしているのかなと感じました。

 

 

「弱さ」も「強さ」も受け止めて支え合う関係

 

....という状況整理はここまでにして今週のお話の続きです。

 

ボルダリングで楽しい時間を共有し、そのまま良い雰囲気で夕食を迎えることになろうかというこのタイミングで、偶然にもおばあちゃんに連れられた孫娘の姿が千鶴の目に飛び込んでくる。

 

 

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心に残る寂しさ(第161話より)


なるほど。確かに千鶴にとってもこのデートは心から楽しいと思える時間ではあった。そうでなければ、仮にも体が密着するような柔軟体操を一緒にしようなんて千鶴の方から言い出すわけがないし、千鶴としても和也からの"気遣い"を受け入れる形で全力で楽しんでいたはずだった。

 

けれど、心の奥底にはやはり未だ拭えない「寂しさ」が当然ある。だからこそ、通りかかった祖母と孫娘の姿に自分の過去と境遇が重なってしまったんだよね。

 

小百合おばあちゃんのような「立派な女優になる」という夢。約束。原点。未だ果たせていないその遠い目標と、憧れの女優でありたった一人の肉親でもあった祖母を亡くした寂寥感が千鶴の心にどう影響をもたらすのか。

 

先々週から今週にかけて千鶴の心情についてはあれこれ書いてきたつもりだけれど、もしかしたら今の千鶴は、強い自分であるために和也の優しさに甘えることを良しとできないのかもしれない。

 

和也の優しさに触れれば触れるほど、彼に寄りかかってしまいたくなる自分(の弱さと千鶴は思っている)が嫌になる。だから、また「鉄の鎧」を身に纏おうとしている。和也の存在が彼女の中で日に日に大きくなってしまっているからこそ「距離」を取らないといけない。そんな千鶴の心理状態が今回の描写から読み取れるのかもしれない。

 

 

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千鶴の葛藤と2人の距離....(第161話より)

 

「強い自分」であるために。

 

また少し空いてしまった2人の「距離」はそんな彼女の想いの表れなのか。いずれにしても、千鶴が弱い自分を受け入れて支え合って生きていく関係を肯定していけるかどうかが今後のお話を左右する鍵となるのでしょうね。
 

恋愛感情というままならない気持ちに正面から向き合い、人と人との関係をきちんと育むこと。そんな人生経験を経て、和也というパートナーと共に歩む未来を掴んだその時こそ、ちづるは小百合おばあちゃんのような「立派な女優」になっていけるのではないかと、そんなことを感じた第161話のお話でした。次週も楽しみにしております。

 


 ※本記事にて掲載されている情報物は「『彼女、お借りします』/宮島礼吏週刊少年マガジン」より引用しております。

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