『彼女、お借りします』 感想:その"嘘"はたった一つの"真実"を表現するために。なぜ和也は千鶴に相応しいのか

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彼女、お借りします 159話 感想

 

 

久しぶりに『かのかり』最新話の感想です。

 

最近は色々と忙しくてブログの更新も出来ずじまいの状況が続いていましたが、ここ数週に渡る『かのかり』の展開にはちょっと思うところがあり、作品的にも中々に佳境と言えそうなお話を描いているように感じたので、個人的な振り返りも兼ねて一度感想をまとめておこうかと思います。

 

例によって原作最新話までのネタバレが多分に含まれた感想になるため、未読の方は十分にお気をつけください。

 

 

<関連記事>

 

 

 

『彼女、お借りします』感想:一ノ瀬ちづるの過去と夢

 

というわけで、まずは最初におさらいから。

 

これまでのお話を簡単に整理してみると、物語の重要なポイントとして描かれていたのは、

 

①:一ノ瀬ちづるの生い立ちと夢について

②:映画制作と小百合おばあさんの想いについて

 

の2点です。

 

幼いころに両親と別れ、祖父母の元で育てられてきたちづる。そんな彼女が中学3年生のとある日、天才的な女優であった小百合おばあちゃんの若かりし頃の演技を見たことで、自分も「おばあちゃんのような凄い女優になりたい」と強く思うようになる。

 

 

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ちづるの夢(第100話より)

 

心からの"憧れ"と初めて見つけた将来の"夢"

 

当然、女優になることが簡単な道でないことは中学生ながらに理解している。掛かるお金も努力も並大抵のものではないし、つらいことだってたくさんある。

 

でも、かつてのおばあちゃんがそうであったように、銀幕の中で立派に演技をしている自分の姿をおじいちゃんとおばあちゃんに見てほしいと思った。

 

「願えば夢は必ず叶う」。おじいちゃんのその言葉が彼女の道しるべとなり、絶対に立派な映画女優になってみせると誓って、ちづるはおじいちゃんと『約束』を交わすことに.....。

 

 

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おじいちゃんの死 /「願えば夢は必ず叶う」(第101話より)

 

が、そんな折に訪れたのがあまりにも突然すぎるおじいちゃんの死。

 

正直に言って、とても心を抉られる重い展開になったなと思ったんですよね。孫との約束を守れぬままに亡くなっていったおじいちゃんの計り知れない無念はもちろんだけれど、夢を叶えるために懸命に走り出していたちづるの心情を思うと、この「突然のお別れ」はいくらなんでも辛すぎる。

 

以前の感想で、「水原さんは演者としてのペルソナを被っているように見えて人となりが追いづらい」という趣旨の文章を書いていたのですが、このお話を読んで凄く納得したというか、彼女に対する印象が180度変わったのはこの瞬間からでした。

 

彼女の原点と軸はこの過去の出来事にあって、「願えば夢は必ず叶う」という祖父の教えを"嘘"にしないために、そして、祖母の小百合さんに立派な女優になった姿を見せるために、ちづるはずっと夢に向かって走り続けていた。

 

レンタル彼女をやっている理由もすべては「女優になる」という夢を叶えるためで、そこには金銭的な割の良さだけではない、自身の"演技"向上という明確な目的(リアリティラインの追求は人それぞれですが僕は物語としてちづるの考えは一貫していると思っています)があった。

 

100話目付近にしてようやく「レンタル彼女・水原千鶴」ではない「一ノ瀬ちづる」というヒロインのパーソナリティがきちんと描かれたことで、この作品のコンセプトや目指しているゴールが少しずつ見えてきたのではないかなと、そんなことを思えたエピソードでした。

 

 

映画制作と小百合おばあさんの想い

 

そんなちづるの過去編に連なって描かれた次なる展開。それがクラウドファンディングを活用した映画制作編です。

 

「願えば夢は必ず叶う」というおじいちゃんの言葉を胸に刻み、いつか必ず思いは届くと信じて努力を続けてきた一ノ瀬ちづるのこれまで。

 

しかし、度重なるオーディションの落選を経験し、実力だけが全てではない「役を掴む」ということの現実的な難しさが彼女の心に迷いを生じさせる。

 

 

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現実と夢(第102話より)

 

どれだけ強く願い続けても叶わない夢はある。

 

きっと小百合おばあさんの容態があまり芳しくないことも、彼女の心を挫く大きな要因になっていたはずです。

 

たった一人の家族であり、目標とする憧れの存在であり、心の支えでもあった大好きなおばあちゃん。ちづるの境遇を考えれば、この世界には「夢」も「希望」もありはしないのだと悲観的に考えてしまうのも無理からぬこと。齢20歳の女の子がその身一つで受け止め切るには、彼女の人生はあまりにも不幸な出来事が多すぎたのだから。

 

 

 

 

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君をステージに立たせる(第103話より)

 

しかし、そんな残酷すぎる現実の中にあって、残された時間の短い小百合おばあさんに「水原」の演技を見せるのだと、彼女を主演にした映画を俺がプロデュースする!と言ってみせた和也は素直にカッコよかったなと思うのですよ。

 

無論、主人公としての和也には甘いところがたくさんあるうえに、いい加減で見栄っ張りで男目線で読んでもどうしようもないな…って思うような行動や言動をすることもいっぱいある。

 

それは連載初期から散々言われてきたことでもあると思うし、終盤まであまり感情を表に出さないタイプのラブコメ主人公が増えてきた昨今の風潮では、場当たり的な和也の行動がより悪目立ちしてしまう側面もあるのかもしれません。かく言う僕も、最初の頃は「もうちょっと共感させて欲しい……」と思わずにはいられませんでしたし。

 

でも、そんなダメで不完全で夢見がちな和也だからこそ、絶望の淵に沈んでいたちづるにもう一度「夢」と「希望」を差しのべることができた。宮島先生が本作で表現したい和也とちづるの関係性はそういうものであるように思えたわけです。

 

 

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小百合おばあさんの言葉(第112話より)

 

第112話で小百合おばあさんが印象的に語っていたように、自分の孫という目線を抜きにしても真面目で努力家なちづるは本当にとても良くできた子で、そんな彼女と比べれば、頼りない面も学生らしい甘さも和也にはたくさんある。

 

しかし、それでもなお小百合おばあさんが「(ちづるの)連れてきた人が和也君でよかった」と言い切った理由は、和也の姿にちづるのおじいちゃんである勝人の面影を重ねていたからなわけじゃないですか。

 

女優という人気商売で生きていくことは博打そのもので、応援してくれる存在がいるからこそ女優は舞台の上で輝ける。

 

その事実を誰よりも理解しているのが小百合おばあさんであり、そんな天才的大女優と崇められた自分の人生を傍で支えてくれたのが、ごくごく平凡なタクシー運転手の、しかし<人の「夢」と「想い」を誰よりも大切に考えて応援してくれる>勝人だった。

 

だからこそ、

 

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小百合おばあちゃんの想い(第112話より)

 

でも彼ほど 貴方に相応しい人はいないわ

 

という台詞を小百合さんは笑顔で語っていたんだよね。

 

自身が大女優であったことがちづるの人生を縛ってしまったんじゃないか、無用な責任感を働かせて無理をさせてしまっているんじゃないか、小百合さんはずっと心配をしてきたけれど、ちづるの傍に「夢は必ず叶う」と手を差し伸べてくれる和也という存在が現れたこと、そしてその男の子と共にちづるが現実を乗り越え「夢見ること」を楽しめる子に育ってくれたこと、それが小百合さんとしては何よりも嬉しいことだったから。

 

人に頼ろうとせず、優等生として振る舞う孫娘のちづる。けれど、人は一人では生きていけない。誰にだって不完全で足りない部分がある。女優を目指して「理想」を演じ、他者に「弱さ」を見せようとしないるちづるにそのことをわかってほしかった。

 

勝人が亡くなって以降、舞台の上に立つ側の人間だった小百合おばあさんには、ちづるをどう「自由」にしてあげればいいのかおそらくわからなかったんだと思う。そもそもちづるにとって小百合さんは「目標(=夢)」そのものになってしまっているし、小百合さんは勝人と違って「応援する」側の立場ではなかったのだから。

 

 

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小百合おばあさんの想い(第145話より)

 

だからこそ、観客席から高嶺の花に手を伸ばしてちづるの想いに寄り添ってくれるバカで夢見がちな和也こそがちづるにはお似合いだと小百合さんは感じていたのだろうし、かつての自分と勝人がそうであったような、「弱さ」も「強さ」も補い合って歩いて行ける夫婦の姿を2人に見出したんじゃないかな。

 

そんな風に考えてみると、この物語は「レンタル彼女・水原千鶴」としての彼女ではなく、「一ノ瀬ちづる」という一人の女の子と向き合っていくことが一つのゴール地点になっていくのかなと個人的には思います。

 

 

嘘と彼女

 

そしてもう一つ、物語を通して「嘘」というワードがキーになっている点もやはり興味深いポイントと言えそうでしょうか。

 

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嘘と彼女(第150話より)

 

仮初の「嘘」から始まった和也と千鶴のレンタル関係。

 

しかし、ちづるは最後の最後まで2人の関係が「嘘」であることをおばあちゃんに打ち明けることができなかった。

 

どうして言えなかったのかと言えば、それはやはりちづる自身が言葉にしていたように「言いたくなかったから」であり、無自覚であれちづるの中に「嘘」ではない感情が含まれてしまっているからであろうことはさすがに疑いようもない。

 

 

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ちづるの気持ち(第90話-第91話より)

 

けれど、潔癖で真面目なちづるにとっては、一度引いた「嘘」という境界線を飛び越えることはそう簡単な問題ではなくて。。。

 

だからこそ、小百合おばあちゃんの語る「たった1つの"真実"を表現するためにたくさんの"嘘"がある」という含蓄のある台詞が、まさしくこの作品の本質を貫く重要なテーマになってくるんだろうなと思えるわけですよね。

 

 

 

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たった1つの真実(第150話より)

 

「嘘」から始まった関係がやがてオーセンティックな恋に変わっていく。

 

2人が本当の気持ち(=「真実の恋」)を見つけていくまでの過程を表現することがこの作品の本意であるとするならば、やっぱり物語のメインヒロインは瑠夏ちゃんでも水原千鶴でもない。一ノ瀬ちづるなんですよ。

 

そして、小百合おばあさんが亡くなってしまう流れ自体は演出も含めて純粋に心に響いた一方で、物語的なお話、ちづるの方から和也と「嘘」の関係を繋ぐ理由はこれでもう完全に無くなってしまったと言える状況でもある。

 

であれば、小百合おばあちゃんとのお別れが2人の関係に決定的な変化をもたらすことはやはり間違いないのではないかなと、個人的にはそんなことを感じる展開だったわけでございます。

 

 

第159話 :彼女と彼氏③

 

.....からーの、この最新話ですよ。

 

和也と「水原さん」のデート回。いや、普通に水原さん可愛いのでそれはそれでいいのですけど、しかしまぁここで和也が「水原千鶴」としての彼女をレンタルする展開というのは正直何が狙い何だろうなと最初は思っていたんですよね。

 

映画制作であれだけ互いに協力をし合う仲になってチームとしての友人にもなって。それなのに今更レンタルして呼び出す主人公ってどうなんだろうかと。この期に及んでそんなフレームにこだわらなきゃいけなかったのかと。ぶっちゃけ疑問だったんです。

 

 

 

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君が楽しんでくれると自分も楽しい(第159話より)

 

でも、デートの導入はともかく実際に描かれている内容的にはやっぱり彼女の素の表情を引き出すようなデートになっていて、その流れから「彼女が楽しそうにしていると 自分も幸せな気持ちになれる」と和也が気づく構図は、初期の頃の和也と比べると人としての成長が見えたような気もして好感が持てた面もありました。

 

始まりは「嘘」だったけれど、和也が他の誰でもなく「君がいいっ!」と心から思えた理由は、彼女の生き方そのものに惹かれて一生応援したいと思ったから。自分に彼女が出来るよう真剣に考えてくれたことが嬉しくて、夢のために真っ直ぐ頑張り続ける彼女が誰よりもカッコ良くて。だからこそ彼女が幸せそうにしてくれると自分も幸せになれる。それはもう「愛」に近い感情だとも思うし、自己評価の低い和也の今後の課題は「幸せになって欲しい」ではなく「幸せにしたい」と言えるようになることなんじゃないかな。

 

まぁ、「レンカノ」という関係が2人の原点である以上そこを入り口にしてお話を広げていきたいと考えての展開なのかもしれませんし、一方の水原さん側にしても、映画制作や小百合おばあちゃんの件で親身になってくれた和也の行動に改めて自分の感謝を伝えようとしているようでもありますので、今回の「彼女と彼氏」編は2人の距離が心理的に近づくお話になるのではないかと、そんな視点で顛末を楽しみにしております。

 

 

.....というわけで、何が言いたいのかを一言でまとめると、

 

 

 

 

 

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誰かのために(第156話より)

 

やっぱり「墨ちゃんは凄く良い子!」ってことですよ。

 

和也が気づいた「相手が喜んでくれると自分も嬉しい」という感情はそのまんま墨ちゃんが和也に対して抱いている感情でもあるし、水原さんを笑顔にするためのデートをする決心がついたのも墨ちゃんに後押しをもらったからなので、墨ちゃんが実質MVPみたいなところはあるんじゃないでしょうか。

 

今後、和也と水原さんがレンカノ関係を越えていくお話になるならなおのこと、物語の出発点であり和也が水原千鶴と出会うキッカケとなった麻美ちゃんとの決着はきちんと付けて欲しいなとは思いますが、最カワヒロインの瑠夏ちゃんとスーパー大天使の墨ちゃんにもうまいこと見せ場を作っていただけると大変助かりますので、宮島先生の手腕に全力で期待しております!

 


 ※本記事にて掲載されている情報物は「『彼女、お借りします』/宮島礼吏週刊少年マガジン」より引用しております。