『カッコウの許嫁』79羽目 感想
『カッコウの許嫁』 最新話 感想 ネタバレ注意`se
マガジン本誌で連載中の『カッコウの許嫁』が今なかなかに面白い展開になってきました。
長期連載のラブコメ が中盤以降ストーリー的に停滞しがちなのはもう構造上致し方ない(そういう意味で『五等分の花嫁』は本当に毎話猛烈な勢いで駆け抜けていった作品でしたね.....)と思っているのでそういう"タメの期間"も込みで僕はラブコメが好きなのですが、ここにきてついに『カッコウの許嫁』ラブコメワールドにも大きな波が押し寄せようとしています。
許嫁の「エリカ」、想い人である「ひろ」、妹の「幸」、そして.....。運命に振り回され続けている主人公の凪がここからどんな選択をするのか、誰と共に未来を歩いていく決断をするのか。
複数人ヒロインがいる1対多のラブコメストーリーにおいて最も大切な「どうしてそのヒロインでなくてはいけなかったのか」の部分を物語を通して示してくれる作品になってくれたら個人的に嬉しいなと。
そんな期待感を込めつつ、結末に至る第一の口火が放たれたここ最近の物語について簡単にレビューを書いていきたいと思います。
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『カッコウの許嫁』ラブコメワールド
本作の読者は既にご存じの通り、これまでの『カッコウの許嫁』ラブコメワールドは、主人公の凪と3人のヒロインたちによってお話が展開されてきました。
許嫁として同居生活を共に営んでいるセンターヒロインの「天野エリカ」・学年一位を争うライバルであり凪の想い人でもある「瀬川ひろ」・血の繋がりがないと判明している最強妹の「海野幸」。
3人のヒロインたちがそれぞれの関係性から凪と接点を持ち、個別エピソードによってラブがコメる展開を描きつつも明確に均衡は崩れない。そんな体操選手顔負けのバランス感覚で1年半近くもの間ラブコメワールドの調和を保ってきた。それが『カッコウの許嫁』の現状でありました。
とはいえ、本作の前提として主人公の凪が瀬川さんを好きだと明言している...けれど瀬川さんにも家の跡継ぎ問題があって凪からの告白を"今はまだ"そのまま受け入れることができない状況が背景にあり、加えてヒロイン同士の関係性がある程度近しいこと、ヒロイン同士がお互いの事情をある程度察している関係性にあること、....等々の状況を考えればかなり妥当なストーリー展開ではあったと個人的には思っていたんですよね。
たとえば、僕はがっつり瀬川さん派の人間なので、瀬川さん軸でラブコメワールドに若干の進展を感じた第62話~第65話のお家騒動編のお話が結構好きだったりもしていますし。
かつて瀬川さんが凪に向けて言った「私の運命 変えてみせてよ」という叫びにも近い本音。そこに対するアンサーとして、ついに凪は第62話で「運命とは自ら切り開くものだ!!」と瀬川さんの手を引いて見せる。
それが先走りの行動であったとしても、言葉だけではなく行動で示してくれたこと、凪があの日のようにまた助けにきてくれたこと、それが瀬川さんにとってとても嬉しいことだったわけですよ。
2年前、他人を寄せ付けずに独りぼっちだった自分の前に現れた男の子。でも、その出会いによって瀬川さんの生き方は変わった。おしゃれも運動も人付き合いも意識するようになって、その結果学校が楽しくなった。
そして気付く。海野凪という男の子との出会いによって自分の"運命"は変わっていたのだと。運命という言葉は「人間の意志を超えて、幸福や不幸、喜びや悲しみをもたらす超越的な力」という意味で一般的に使われているけれど、実際のところそんなものじゃないんだ。
ある事象を当事者がどう感じるかで悲しみや喜びの感情が確定する以上人の意思を考慮せずに定義付けなんて出来るわけないのだから。ゆえに運命という言葉は魔法のワードであり、たとえ何の変哲もない一つの出会いだったとしても、そこに人が意味を見出した時、つまり人がそれを運命だと感じた時、初めてそれは本当の意味で"運命"になる。
凪が瀬川さんの運命を変える覚悟を示し、その結果として瀬川さんにとって凪は運命の相手になった。
凪が瀬川さんに惹かれ、彼女のことを想って行動を起こした結果、こうして今がある。だからこそ人の行動や選択によって未来は変えることができるし、どうしても通したい想いがあるのなら背負った運命さえも自分の気持ち一つで切り開いて行ける。それが本気を示すことであり、逃げずに向き合うということなんだから。
そして、そんな瀬川さんエピソードの顛末をエリカが自身の境遇と照らし合わせて総括していた点も物語を前進させていた要素の一つ。
エリカもまた凪との出会いによって自分の知らなかった世界に触れることができた。それを楽しいと思う自分がいて、自分の置かれている状況から逃げ続けていたら「ずっとこんな日が続けばいいのに」と思えるような今の日常が訪れることはなかったんだよね。
凪には瀬川さんという明確な想い人がいるわけではあるんだけれど、本当に少しずつ凪の隣にいることを意識し始めているエリカの心情変化は今後も非常に楽しみだなと思います。
第4のヒロイン"望月あい"の存在
.....という流れで一歩ずつヒロイン毎のエピソードを積み上げ着実に進んできた『カッコウの許嫁』ワールド。
しかし、ここでついに「ネクストステージ」と言わんばかりに激震が走ります。そう、第4の矢にして小学生の頃に凪が告白をしたこともある幼なじみヒロイン"あいちゃん"の登場です。
しかも、
「結婚するために帰ってきた」⇒「でもごめん 俺には今好きな人がいるんだ」と直接断られる⇒「想定外ですが 問題ありません」「今度は必ず手に入れてみせます」と宣言⇒「あいは凪ちゃんのことが大好きです」と再告白⇒あいちゃんが大人気アーティストであると発覚する⇒凪との熱愛発覚報道がTVで流れる
という破天荒っぷり。
細かいツッコミどころはまぁコメディとしての範疇だと思いますが、あいちゃんの存在が凪の置かれている現状認識をまた一歩前進させる展開に繋がっていくのでしょうか。
生まれて初めて自分に告白をしてくれた思い出の女の子。されど、今の自分には好きな人が他にいる。
自分には親同士が決めた"許嫁"がいて、自分の意中の相手にも家の事情で"許嫁"がいて、そして血の繋がらない"妹"にも「アタシは結婚しないもん!!だからお兄も結婚しないで!!」と言わている。
あいちゃんがどこまで深く事情を把握しているかはともかく、凪の置かれている状況は普通の恋愛と比較すれば中々に複雑で、家の事情も込みで考えると障害や困難が少なくないことはこれまでにも凪自身が痛感してきたところでもある。
けれど、そんな運命に立ち向かってでも瀬川さんの運命を変えると凪は一歩踏み出したわけで、凪の気持ちは既にもう固まっている。だから大丈夫!good-byeあいちゃん!また逢う日まで!
.....そう思っていた時期が僕にもありました。
79羽目:この夏休みどうだった?
あいちゃんとの熱愛報道(誤解)を受けて激おこ状態の瀬川さん。マジで目が笑ってないし、控えめに言っても怖い。これがヤキモチの威力か....。男性の皆様には効果抜群である。
もちろん完全に濡れ衣なので凪としては弁解のチャンスを探るわけですが、あいちゃんの歌う漏電が凪のことを思って作られたラブソングであっただろうこと、そして瀬川さん自身もその曲に強く共感しいつしか憧れていったこと.....等々が彼女の気持ちをより混沌とさせてしまった。
張り詰める空気感の中、「私 ムカついてるんだよね」の言葉と共に瀬川さんは凪の胸倉をぐいっと掴み、
そのまま、ほっぺにキスをするのであった...。
なるほどなるほど。うーん、なるほど?いや、瀬川さん難しすぎる...。
個人的にはこれまでの凪の行動や言動を踏まえてもう少し信じてあげても...とも思いましたけれど、誤解やすれ違いが引き金になって恋模様が進展していくのは"ラブコメ"の王道文法なので、むしろこの後の展開こそが重要ということなのでしょうね。
凪に出会う前、運命が変わり出す2年前の彼女は他者を寄せ付けず常に独りぼっちだった。そんな頃の彼女から言われた「あの言葉」が2年という年月を経て再び凪の心に突き刺さる。
二度と話しかけないでもらっていいかな
きっと誤解を解くこと自体はそんなに難しくはないはず。でも、あの時と全く同じ拒絶の言葉がリフレインされているということは瀬川さん軸のストーリーとして非常に大きな意味を持つお話になるのでしょう。
いずれにしても、今回のあいちゃん旋風が瀬川さんと凪の関係を進展させるお話になってくれたら面白そうだなと。
あともう一つ気になる点としてはエリカの心情変化が挙げられるでしょうか。
あいちゃんに告白されたことを知っているエリカは、今回の熱愛報道を受けて凪が告白を承諾したと勘違いしているのでしょうね。
形式上の許嫁関係でしかないのであれば、本人の自覚の有無はともかく、さすがにこういう感情的な反応が湧き上がってくることはないと思いますし。
いつになるかはわかりませんが、エリカが自分の気持ちを認識してからどういうスタンスを取るのかによって作品の雰囲気が結構変わりそうな気も。
凪と瀬川さんがほぼ両思いであることを知ったうえで自分の気持ちに気付くのはまぁ難儀ですよね....。もちろん読者としてはそこが楽しみではあるのですが。
というわけで、あいちゃんの告白を起爆剤に妹の幸も含めてここからストーリーが動くことを期待しております。