ぼく勉 問110 感想「砂上の妖精は[x]に明日を描く④」
『ぼくたちは勉強ができない』 最新話 感想 ネタバレ注意
今週の『ぼく勉』を読了。
全4回に渡って描かれてきた「砂上の妖精」編もいよいよ今回でクライマックスです。前回の強烈な引きからどんな着地を見せてくれるのか、続きが気になった状態で連休を過ごされていた方も多かったのではないかと思いますが、やっぱりラストはとても『ぼく勉』らしいテイストでお話が構成されていたように感じますね。
人の想いをどこまでも大切に描き、かつ「明日(=未来)」に希望が持てるような優しいストーリー展開。改めて、そんな作風こそが『ぼく勉』の持つ魅力なんだろうなぁ...と感じさせてくれる内容でした。
夢を追い掛ける「娘」とバトンを託す「父」の姿に、筒井先生は一体どんなメッセージを込めたのか。今週はそんなところを中心にお話を振り返って参りましょう。
<砂上の妖精編>
ぼく勉 110話:砂上の妖精は[x]に明日を描く④
前回、「俺...先輩に思い出作らせる気なんてないです」と語りながら、突然のお姫様抱っこによって、先輩を診察台に寝かしつけることに成功した成幸くん。
読者から見れば、夜の「小美浪診療所」で彼は一体何をしようとしているの...?というシーンに映っていたわけですが、
なるほど、この不可思議な行動もまた、先輩に自分自身の「夢」を再確認してもらうためのものだったわけですね。
今、あすみ先輩は向かうべき「夢」を見失っている。その理由は当然、「ここがなくなってしまったらアタシには何もない」のだと、自らの目標を「小美浪診療所の医者になること」であると捉えていたから。自身の夢の”本質”がどこにあるのかという命題に対し、これまでの彼女が「場所」にこだわりを見出していたからです。
この診療所が先輩の夢の全てなら
そのきっかけになったものも きっとここにあるはずですよね?
しかし、成幸くんにとってはやはりそうは見えなかったのでしょう。
ゆえに、上記の問いかけが出てくる。子供の頃、診察室のベットじゃなきゃ寝ないと思った理由はなんなのか、どうしてそこまでこの「診療所」に彼女は特別な想いを寄せているのか。その理由、その”気持ち”こそが、他でもなく彼女にとっての原点であり、夢の本質なんじゃないのかと。
メイド喫茶で示された笑顔溢れる光景がまさにそれを体現していて、だからこそ成幸くんは、この場で今一度彼女の夢の本質がどこにあるのかを問いかけているわけですね。
そして、その問いかけの答えはもちろん「患者の笑顔が好きだった」という点にこそただ一つの真実があるわけで。
憧れの父が担当した患者さんは、全員が笑顔で帰っていく。その光景が誇らしくてカッコよくて、だから彼女は自分もそういう「医者になりたい」と思った。それが彼女の原点であり、また「夢」の始まりでもあったわけです。
であれば、やはり彼女にとって一番大切なものは、「場所」ではないのでしょう。
彼女が目指していたものの本質は「患者を笑顔にできる医者になること」。ゆえに、「小美浪診療所の医者」になれなくても、想いさえあれば、それを実現できる場所は他にもある。かつて彼女が描いた「夢」(=みんなの笑顔が溢れる診療所の絵)は診療所の閉鎖によって消えたりはしないはずです。
そういう意味でも、今回の長編はつまるところ、彼女が「医者を目指す理由」を再度確認するお話だったわけですね。展開だけを見ればオーソドックスのようにも思えますが、「夢の在り処」をきちんと再定義出来たことは、「夢」の実現をテーマに据える作品にとって非常に意義深いものだったように感じます。
バトンを繋ぐということ
一方、母・かすみさんの存在が今回のお話に確かな説得力をもたらしていた点も素晴らしい要素の一つでした。
かすみさんが「海外で医者を続ける理由」。それはやはり、夫の宗二郎と同じ「患者のための医者」であるというマインドを大切にしていたからで....。
ゆえに、彼女にとって「場所なんてどこだっていい」わけです。もちろん「小美浪診療所」がどうでもいい場所ということを彼女は言いたいわけではありません。あの診療所は確かに家族みんなにとって思い入れのある場所。
しかし、それは文字通り、人の想いが詰まっているから大切な場所になりえるわけですよね。あくまでも主体は「人の想い」であり、器の方じゃない。器に想いを注ぎ続ける人がいれば、たとえどれだけ離れた場所であっても、そこが「小美浪診療所」になる。それがかすみさんの想いであり、また彼女が診療所のバトンを広い世界へと繋いできたことの証なのでしょう。
先輩は必ず 立派な医者になるんですっ!!
場所なんかどこだって 先輩がいれば
そこが新しい「小美浪診療所」になるんですッッ!!
そして、そんな「小美浪」家に流れている想いのバドンを汲み取り、あしゅみー先輩の夢に全力で寄り添おうとする成幸くんの姿がとても熱かったなと。
こんなにも真剣に誰かの”夢”を応援できるあたり、やはり彼は「生徒に寄り添える教師」に向いてますね。先輩の瞳から不意に流れた涙も、そんな彼女の頭を優しく撫でる成幸くんの姿も、問108との美しい対比になっていて、最高に心を掴まれる結末でした.......。
娘の成長と父の想い
また、個人的に胸を熱くしたのが、父の宗二郎が娘の想いを聞き、限定的にでも診療所の継続を決断したシーン。期待されていた展開ではありましたが、これ以上ない素敵なオチだったとも思います。
というのも、宗二郎の立場からすると、やっぱり娘の未来を「縛ってしまっている」という想いが少なからずあったんじゃないかと思うんですよね。
現実的な見方をすれば、「バトンを託す」ことは同時に「縛る」ことでもありますから。「診療所」を畳もうとしていた件も、自身の体力や取り巻く環境だけが理由にあったわけではなく、娘に「自由な道」を選択して欲しかったから...という想いがあったことは容易に想像が付くというものでしょう。
しかし、娘と成幸くんのやり取りを聞き、娘が診療所を盛り立てようという使命感に「縛られている」のではなく、自らの意志に沿って「バトンを受け継ごうとしている」んだという事実を宗二郎は改めて理解する事が出来たんじゃないでしょうか。
実際、先輩も先輩で「場所への想い」に縛られていた側面もあり、その縛りから解き放たれ、自分の夢を再度見つめ直すことが今回のテーマでもあったわけですからね。娘の精神的な成長が土台になって父の心を動かした。今回の長編はそういう物語だったと解釈するのが自然なのかなと。
とすると、ただ「診療所」の継続を父に訴えかけるだけのお話に収まるのではなく、成長した姿を以って父に夢を認めて貰うという着地になったのは物語的に言っても必然だったように思います。
結果的に診療所を"形"として残す事実は同じでも、あしゅみー先輩の「夢」に対する想いは確かに一段高いステージに昇華された。今回の長編で筒井先生が描きたかったことはまさにその部分だったのでしょうね。「過去」の思い出を「未来」へと繋げてみせた先輩の強い姿。そのあり方がどこまでも眩しく見える結末でした。
....というわけで、今週の感想をまとめると、
特別な想いをキスに込めて...!
あしゅみー先輩が最後に見せてくれた「特別な冗談(=キス)」がとても素晴らしかったなってことですよ!
「冗談」とか「感謝」とか、何かと素直になれない大義名分を使ってしまう先輩ですけれど、しかし、これはもう立派に彼女なりのアプローチだとも思うんですよね。
もちろん、読者に分かりやすく見せるなら、「私も本気になっちゃうかもな...」みたいな独り言があっても良かったんじゃないかなぁ、なんて勝手なことを考えてしまう僕ですが、それでも流石に今回のキスが「感謝100%のキス」とは思い難いじゃないですか。
十中八九、からかい以上の「特別」な何かがそのキスには込められている。この先、彼女が成幸くんに本気でモーションを掛けていくのか、はたまた、今まで通り一歩引いた先輩ポジションを確立していくのか、それはまだわかりませんが、今後のあしゅみー先輩の恋模様に期待をしたくなる長編ではあったのかなと感じますね。
来週は真冬先生のお引っ越し回みたいなのでどんなドタバタ劇を見せてくれるのか楽しみにしております!
※本記事にて掲載されている情報物は「『ぼくたちは勉強ができない』/筒井大志/週刊少年ジャンプ」より引用しております。