ぼく勉 問115 感想「機械仕掛けの蛍は[x]の淡雪に焦がる②」
『ぼくたちは勉強ができない』 最新話 感想 ネタバレ注意
今週の『ぼく勉』を読了。
ここに来て非常に面白い展開になってきました。なぜ、理珠ちんは「自分のことが嫌いなのか」。前回はそんなところがとても気になる引きで終わっていたわけですが、サブタイトルとの絡みも含め、今回は色々と納得させられるお話でしたよね。
恋に身を焦がす蛍の葛藤。少しずつ「感情」というものを分かり始めてきたからこその戸惑い。ただ単に「過去」を掘り下げるだけのお話にはならないだろうとは思っていましたけれど、いざ実際に読んでみると、想像以上に熱く、そして読ませる展開になってきたなぁ...とテンションが上がる一方ですよ。
一体、この長編のラストにはどんな"クリスマス”が待ち受けているのか。お祖母ちゃんとの思い出、文乃さんとの出会い。そんな、様々な要素が描かれている「機械仕掛けの蛍」編第2話目について、早速気になった点を振り返って参りましょう。
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ぼく勉 115話:機械仕掛けの蛍は[x]の淡雪に焦がる②
というわけで今回は、理珠ちん達が高校1年生だった2年前の場面から。
高1の春、理珠ちんと文乃さんの初代教育係として真冬先生が任命され、その末に対立が勃発したことは既に周知の通りですが、それでも、少なくともスタートの半年間は真冬先生が指導を行い面倒を見続けてはいたようで。
が、一向に成績が改善されない2人の惨状にしびれをきらした先生が「志望分野」を変えなさいと一喝。当然、「あなたに人生まで決められる筋合いはありません!」と理珠ちんに言い返され、決して交わらない平行線関係が確立されていくわけなんですが、そんな気まずい雰囲気をガッツリ笑える状況に仕上げてくれる文乃さんのドジっ娘っぷりが最高にお可愛いですね。
好戦的な理珠ちんに対し、誰に対しても柔和に接することのできる文乃さん。どちらも自身の進路に対して譲れない想いを抱えた人達である一方で、人との関り方には大きな違いがありました。
人当たりよく 誰からも好かれる美人
私とは対極の存在のようです
だからこそ、緒方理珠はこう思う。
空気を読めず、友達のいない自分とは対極の存在。「美人」という評価はそれぞれの主観が混じるところですが、まぁ自分にないものを持っている人というのは、(それが無意識のうちの感覚であっても)より魅力的に見えて仕方がないものですよね。
「出会って半年たつから食事をする」。
そんな些細なやり取りの中にある、緒方さんと友達になりたいという文乃さんの意図を読み取れない彼女。
なぜ、この人は自分を誘うのか。食事を共にする理由とは何なのか。自身の行動基盤を「合理性」という名のフィルターを介して選択してしまう彼女にとって、相手の気持ちを推し量ることがいかに難題であったか、改めて痛感させられる一幕でした。
なりたい私と見えてきた自分
しかし、そんな機械仕掛けの親指姫に対して、なおも歩み寄りを見せるのが、古橋文乃さんという女の子の素敵な一面なわけでありまして。
緒方理珠が友達付き合いに不器用な子であることを知っている。誰とも関わりたくないと思っているのではなく、上手な関わり方がわからない子であることに気付いている。
だからこそ文乃さんは、彼女に関わろうとしたわけですよね。理珠ちんは文乃さんを対極の存在と評し、それもまた確かに揺るぎない事実ではあるけれど、でも、それでも文乃さんにとって彼女は、自分と同じように、「できない」ものに立ち向かおうとしている子なんだと、そう思えたから。
お店のお手伝いやお祖母ちゃんとの思い出の品である宝物。それらを通して知った緒方理珠という女の子の新しい一面。状況に即した接客をしてみせる文乃さんに理珠ちんが一方的に羨ましさを抱くシーンかと思いきや、文乃さんもまた、今まで知らなかった彼女の大切なものを知れたことに心からの嬉しさを覚えていました。
だからね
わたしのこと...私の気持ちも
いっぱいあなたに知ってほしい
ゆえに、自然とこういう言葉が出てくる。
相手のことを知りたくて、自分のことも知って欲しいと近付いて。相手を知り、自分のことを知ってもらう。言うなれば、これこそが究極のコミュニケーションそのものなんです。
論理も合理性も関係ない、何よりも大切で一番忘れてはいけないこと。それをしっかりと実践し、自分の気持ちをきちんと言葉に出来る古橋文乃という女の子。そんな彼女を前にして緒方理珠は...........、
「この人は私のなりたい私だ」と強い憧れを抱いたわけですよ。
そして、同時に「私がなれない私だ」とも。何となくそうなんだろうと予想はしていましたけれど、理珠ちんが文乃さんに対してそういう眩しい"感情"を抱いていたのだと思うと、この2人が出会ったこともまた間違いなく運命だったんだなと、そう改めて再認識させられる、実に趣深い展開であったように思います.....。
緒方理珠の戸惑い
しかし、当然、誰かが誰かのようになるなんて出来るはずもないわけで。
彼女も理解しているように、文乃さんは文乃さんであって、自分は自分でしかない。いくら彼女のようになりたくても、それぞれに「違い」があるのは自然なこと。
だから、「自分なり」でいい。誰かのようにはなれなくても、自分なりに前に進めればそれだけで良かったのです。この数年間もそうしてここまでやってきて、昔に比べれば確かに「成長」している自負もある。
彼女がずっと憧れてきた「人の気持ちに聡い自分」。その目標に近付くことさえできれば、きっと自分のことを認められる。やっと、もう少しで「好きな自分」を見つけられる。今までどおり、これからもそれは決して変わらない。はず......だったのに。
実際に、自分の「心」を通して見えてくるのは「嫌な自分ばかり」という自己矛盾。
相手の気持ちが少しわかるようになって、自分の気持ちも徐々に理解できるようになって。だからこそ彼女は、自身の中に生まれた綺麗ではない「感情」の存在に気が付いてしまったわけです。
仲良く楽しそうに話している成幸くんと文乃さんの姿を誇らしく思いながら、それでも止めることが出来なかった第一歩.....。
そこに、緒方理珠の「嫉妬」がある。
人が人を好きになり、当たり前のように発生するやり場のない気持ち。初めての「恋」ゆえに、そんな感情を抱いてしまう自分に"戸惑い"を隠せないでいる彼女ですが、でも、こういう気持ちを知ることが「感情」を理解するということでもあるはずです。
好きな人に、自分のことだけを見て欲しいと思うこと。それは、相手を理解できないからではなく、相手のことを一途に考えるからこそ生まれるものなんですから。
だから、嫌いにならなくていい。きちんと向き合って大切にしてあげればいいだけなのです。今回の長編は、彼女がそういったことに気付いていくお話になってくれたらいいなと。ここからの展開に注目したいですね、
お祖母ちゃんの想いとお互いの気持ち
さて、最後に少し個人的な所見を。
ここまでの流れを鑑みると、今回文乃さんが語っていた「わたしのこと...わたしの気持ちもいっぱい知ってほしい」という台詞は、やはり非常に重要な意味を持っている気がしますよね。
お互いの気持ちを理解し合うために、あのクリスマスの日、お互いの「好き」を語りあった2人。2年前は、「星」と「お祖母ちゃん」についてを共有し合うことで2人は友達になれたわけですけど、当然この文脈でいけば、今の彼女たちが真に分かち合うべき「好き」は他にあるわけじゃないですか。
唯我成幸くんを「好き」という気持ち。文乃さんも理珠ちんもその気持ちをお互いに言うことが出来ずにいて、それゆえに一人で葛藤に苛まれているという点ではまさに同じ穴の狢なんです。誰にも言えないから、文乃さんは「友情」との板挟みに悩み、理珠ちんは抑えられない「嫉妬」に悩む。
どちらもお互いの「恋」を尊重し分かち合えれば、後ろめたさを乗り越えられるはずなのに...。今回の長編はその点にきちんとメスを入れてくるのかもなぁ...と個人的には思ったりで。
また、そういった事情をベースに敷くと、お祖母ちゃんが彼女を突き放した意図についても、物語的な繋がりが見て取れるのではないでしょうか。
ばーばと「一緒に」ではなく、自分の好きを分かち合える「友達」を作って欲しかった。先の長くない自分が、ずっと「一緒に」いてあげることはできないから。「ばーばに勝てるくらい強くなってから出直しな」という台詞の裏にはそんな孫の未来を案じる、祖母の願いが込められていたのかもなぁ...と。そんな風に考えてみても面白いのかもしれませんね。
....というわけで、今週の感想をまとめると、
冬服ブレザーな文乃さんが最高に可愛い
ブレザーを着用した文乃さんが最強に可愛かったなってことですよ!
理珠ちんの長編でありながら、圧倒的な存在感を放っていた古橋文乃さん。まさに女神と形容して差し支えないメインヒロイン力でした。この勢いのまま、来週も文乃さんの活躍に期待したいですね。次回も超楽しみにしております!
※本記事にて掲載されている情報物は「『ぼくたちは勉強ができない』/筒井大志/週刊少年ジャンプ」より引用しております。