ぼく勉 問90 感想「汀の天才は時に嘯きながらも[x]する」
『ぼくたちは勉強ができない』 最新話 感想 ネタバレ注意
今週の『ぼく勉』を読了!
いやー、実にとんでもない展開になってきたものですね...。正直、ここ数週のお話からは凄まじい気迫を感じます。文乃さんの成長を見事なまでに描き切った”最愛の星”編が幕を降ろしたかと思いきや、すぐさまこんな破壊力の高い展開が来てしまうなんて...。もはや、万感胸に迫る思いでございました...。
やっぱり、文乃さんとうるかってどこまでも対照的なヒロイン(※物語的にどちらが正しいのかという話ではなく...)として描かれているのだと思います。文乃さんが成幸くんとの関係を一歩詰めた直後に、うるかが成幸くんへ「別離の事実」を告げる展開を持ってきているのもきっとそのため。これまでにも幾度か触れてきましたが、この構図はやはり偶然の産物ではないのでしょう。
その証拠に、この2人の対照性は先週まで描かれていた「最愛の星」編のエピソードにも表現されているんですよね。
「やれることを全部やりきるまで”好き”な人はいないんだと、単身で海外へ渡り『才能』を活かす道を歩もうとしているうるか」に対し、「”好き”な人に良い所を見せたくて...”好き”な人に褒めてもらえるのが嬉しくて...『できない』ことに立ち向かい支え合って同じ”夢”を追いかけることを選んだ静流さん(=※文乃さんはお母さんの想いを受け継いでいます)」。
要するに、同じ「夢」と「恋」というテーマの中にあっても、この2人のスタンスは明確に違うのです。「夢」の実現のために好きな人と離れることを選ぶ「恋」もあれば、支え合い一緒に「夢」を追いかける「恋」もある。中学の頃のうるかであれば後者を選んだ(実際に高校進学時は同じ学校に行くために志望校を変えていました...)のだろうとは思いますが、しかし、今の彼女は強い覚悟の元に前者を選び取ったわけですよ。
もちろん、この構図が「恋」の結末にどう影響を及ぼしていくのか...という点に関しては、現段階ではわかりません。
あくまでも「夢」という軸だけで見るならば、上述したように、うるかは物語を通してとても大きな「成長」や「覚悟」を見せてくれたわけではありますけれど、人の感情ってそんな風に理屈で語れるものではないですから...。
むしろ、心が体を動かして...、そこに生まれるキラメキに、本物の「恋」が見て取れる。ラブコメストーリーの持つ真の魅力とは、そういった非合理的な想いの中にこそあるのかもしれませんね。
....というわけで、今週はそんな”恋”する乙女・武元うるかの物語です。残された時間を握りしめて、彼女は何を想うのか...。今回はその点に焦点を絞りながらお話を振り返って参りましょう。
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ぼく勉 90話:進んでいく関係性と溢れ出した想い
さて。今週のお話は、文乃さんの「変化」を表現するシーンから物語が展開されておりました。
お互いに見つめ合い、只々笑顔を交わす成幸くんと文乃さん。もうね、本当にこれが最高だったわけですよ...。しかも、その後、彼の横顔に熱視線を向ける文乃さんの姿まで描かれてしまうというオプション付き。完全にお手上げです。「雨」が止み、虹が掛かったようにカラフルに色付いていく文乃さんの”恋心”のなんと美しいことでありますか...。「視線は口ほどにものを言う」とは本当によく言ったものでございますなぁ..。
加えて、うるかと理珠ちんを前にしながらも、躊躇うことなく「成幸くん」と呼んでいることもまた、長編ストーリーを経て文乃さんの中に生まれた大きな「変化」と言えますよね。
問47以降、2人の前ではあれほど意識的に避けてきたはずなのに...。それを考えれば、文乃さんにとってあの夜がいかに「特別」なものであったのか、想像に難くありません。細かい日常会話のやり取りではあっても、こうしてきちんと「気持ちの前進」を表現してくれる所は本当に好印象だなぁと思いますね。
今、痛いくらい幸せな思い出が いつか来るお別れを育てて歩く
一方で、やがて来る別離を前に、身動きが取れなくなってしまっている一人の少女がおりました。
残された高校生活を最後の最後まで「今まで通りの関係」で過ごしたい。だって、前に進めば進むほど、引き返すのが辛くなってしまうから...。お別れが決まっているのなら「このまま」でいた方が辛くない...。それが武元うるかの導きだした理屈であったわけですね。
でも、それは「理屈」であって、「本心」ではありません。
本当は、頭の中がぐちゃぐちゃになるくらい好きで好きで大好きな人である。だから、「わざと溺れて人工呼吸」を狙おうだなんて策を弄す必要もなく、咄嗟の行動(=本心)が出てしまえば、ほら、....このとおり抱き付ける。
結局、「本心」に勝るものなんてどこにもありはしないのです。そもそも「人工呼吸」なんていう名目でキスを成功させたところで、今の関係は変わらない。事故や演技なんかでは決して想いは伝わらない。
だからこそ、自らの想いを明示するために、そのキスには「意志」を込める必要がありました。今回のお話はきっとそういう物語。今の武元うるかが踏み出した精一杯の第一歩。そこに込められた想いについて最後に少し触れていきましょう。
武元うるかの「スキ」と「キス」
というわけで、今回、自らの意志で成幸くんとのキスに至った武元うるかさんでございました。
このキスについて「ただの練習」だと語るうるかですが、無論これは「本心」ではないでしょう。そもそも、「好きな人がいない」というセリフも、「水泳が恋人」という言葉も、更に言えば「全部ウソ!」という言葉さえも真実ではないわけです。
では、一体彼女はそのキスにどんな想いを込めたのか。それは、「別れを受け入れるための自分なりのけじめ」だったんじゃないかと思うのです。夢も恋もどちらも大切で、中途半端には出来ないから。だから今はただ前を向く。これは...そのための、迷いを振り払らうためのキス。ゆえに、自分の本心は隠したまま「留学」という事実だけを打ち明けた。そう考えれば、全てがしっくり気ますよね。
まぁ、それがどうして「キス」という行為に繋がったのかに関しては、「心が体を動かしたから」で十分なわけでありますが、しかし、この場面においてその行為に物語的な意味を見出すならば、「キス」と「スキ」が文字通り、逆さの関係になっているからなのかもしれませんね。
今はまだ伝えられない「スキ」。それでも止められなかった「キス」。いくら閉じこめようとしても、缶からコーヒーが溢れ出すように、「スキ」の想いも隠せない...。そんな構図で見てみるとまた面白いのではないでしょうか...。
....というわけで、今週の感想を総括すると、
「ぼく勉」ラブコメワールドの行末が気になります...
今週のうるかが最高に可愛くて切なかったなってことですよ...。
正直、成幸くんがうるかに対して抱いている感情は、恋と表現するよりも「アイツは本当に凄い奴なんだ...」という意味での「憧れ」と評した方が適切なのではないかと思っていましたが、いよいよわからなくなってきたような気もしていますね。
さて、ここからそれぞれの恋愛物語はどう動いていくのでしょうか...。来週も本当に楽しみです!
※本記事にて掲載されている情報物は「『ぼくたちは勉強ができない』/筒井大志/週刊少年ジャンプ」より引用しております。